まとめ 8 オリオン座のベテルギウス
初秋の朝の空気は、青く澄んで気持ちがよかった。黄緑色の銀杏の葉が風に吹かれ、ヒラヒラと目の前に、ゆっくりと時をかけて落ちてきた。
「今日もきっと、いい日になるね」
彼女は空を仰ぎ、笑みを浮かべた。左のポケットから、青色のプラスチックのストラップがはみ出ていた。彼女のこの根拠のない前向きさに、オレは何度も救われたと思う。
ここ数年、オレはずっと悩んでいた。漠然とした将来への不安である。今の仕事を続けるべきか。新たな挑戦をすべきか。社会の変化するスピードの速さ、残酷なまでに過ぎてゆく時間。もう決して若くはない『頭の中の主観的願望』と『現実の客観的な事実』とのギャップのなかで迷走していた。
「本当に今のままの自分で、大丈夫だろうか?」
彼女と出会う前のオレの日常には、得体の知れない、焦燥感が漂っていた。
「平八郎さん、オリオン座のベテルギウスの話し、知ってる?」
「知らん、なんかあるの?」
彼女は空を仰ぎ、笑みを浮かべたままだった。
「いつでも爆発してもおかしくないみたい。そしたらなんとかビーム光線が地球に当たって、人類が滅亡しちゃうかも……」
「マジで?」
「マジで、まあ可能性は低いらしいけど、いつも心配とワクワクで眠れないわよ……」
暫くの間、彼女は空を仰ぎ、笑みを浮かべたままだった。
彼女と出会ってから、――自分の悩みや不安が、あまりにもちっぽけに思えてきた。なんせ彼女は、何万年スパンの時間軸で生きて、星の運航に思いを馳せ、毎日ドギマギしているのだ。
そして尊敬し目指す人は「ブッタ」
もはや、太刀打ちできない。
つづく
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