第21話

「人が来たと気づけば、『あのぉ、大麻?』ばっかり、色々な土地を回っているから、常識が狂っているのかしらねぇ? それとも大麻の吸いすぎで頭がおかしいのかねぇ? わたしの姿から、関連がないってわかるじゃないねぇ? ふざけんなっ! 若い女捕まえて、『大麻売ってくれませんか?』はないでしょ! ナンパは嫌いだけど、どれだけそのほうがましか……、わたし常盤みたいに優しくないから、“大麻”って言葉を聞いた瞬間に、思い切り股間を蹴り上げて、下がった顔面に回し蹴りをお見舞いしてやるのが決まりよ、常盤も知っているでしょ? ああいう奴らはこの街から、この国から追い出すのよ、痛い目に合わせて二度と訪れないようにして、多くのけがらわしい旅行者に噂してもらうのよ、『あの国行っても大麻は手に入んないぜ、それどころか大麻の話をすると、国民から暴力を加えられるぜ、やめときな』ってな感じでね……」


「姉さんは激しいんだから」カップに口をつけて、熱さに気をつけながら啜る。


「だいたいねぇ、大国がすべていけないのよ、あの国がね、密売者をどんどん密入国させるから、どこの街に行っても大麻が手に入るのよ、それに合わせてのんきなガイドブックに、『大麻愛好者必見、合法、格安、上質、大麻パラダイスの西方の小国』なんてキャッチコピーを載せて売り出すから、もうわんさか集まることったら、ひどいわよ、わたし見かけたんだからね、自国での大麻汚染を抑えるために、小国に餌を集めて、不埒な人達を誘い出して、『わたしの国は健全な国民ばかりです』なんて言うんだから、ほんと厚かましいわ」


 一瞬テーブルに眼を落して、すぐに常盤に向ける。離れた席では男同士が肩を叩き合っている。黒足の給仕が傍を横切った。


「それはたし……」


「国もいけないのよ、輸出入の面で特別に優遇されているからって、密輸入者を取り締まることもしないし、旅行者の入国も禁止しないんだから、ほったらかしよ、街のモラルがさがってしかたないわ、みんな誇り高いから自国の人は手を出さないけど、各国から下品で卑しい人が集まってくるから、もう臭い臭い、せめての救いは、大麻を欲しがる旅行者には暴力を加えていいことね、ぼこぼこよ、それが認められていなかったら、とてもまともに生活なんかしてられないわ、やつらがストレスを与えるから、三倍返しよ、旅行者がいたら、ちょっと目を見つめてあげれば、大麻? 大麻? だってさ、股間をひと蹴り、すかっとするわ、それだけが良い点ね、ほんと……」


 離れの男達は愉快に会話を続けてから、肩を組み合って通りへ歩き出した。給仕は三人の男と、五人の女に飲食物を提供した。常盤は斜め縞のテーブルに肘をつき、コーヒーカップに何度も口をつけて、時折口を挟んではサバラの喋りにかき消された。

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