騙されたのは、どっちかな?
神河巫女
悲しいのは、私?それとも…?
それは、ある夜の事だった。
辺りは静かで、お風呂から出てきた私は直行で部屋に向かった。
静かな廊下を裸足で歩き、少しキシキシと床がきしむ音が廊下に響く。
それでも、その音なんかお構いなしに私は部屋へと急いだ。
カタンッ
私は、その音に肩がビクついた。
何も無いはずなのに…。
誰もいないはずなのに…。
何故目の前に、私のスマホが落ちているんだ。
背中に電撃が走ったかのように、私は中々その場から動けなかった。
「な…なんで、ここに置いてあるの…?」
ブーブーブーッ
「!?」
通知がきたのか、スマホが鳴り出した。
そして、通知が止むとさらに震えが止まらなかった。
なぜなら、そのスマホの画面に写っていたのは元カレからのDMだったからだ。
開けたくない、見たくもない。
それなのに、私は……。
指がスマホに触れていて、メッセージを開いていた。
すると…。
「お前と別れて正解だったわ。」
その言葉は、私の目から離れなかった。
私は、次の言葉を追うように下から上へスライドした。
「俺、今超幸せだから!お前と別れて!」
その言葉は、私の心の奥底に沈めていた感情を呼び覚まそうしていた。
次の瞬間、画面に写ったのは…。
元カレと今の彼女らしき人物の、ツーショット写真が添付されていた。
私は、恐怖もあったが怒りも溢れた。
何故…、何故私をこんな風にさせたのに平凡に生きているのか私には理解できなかった。
それは、2年前の事だ。
私は、元カレと付き合って子供もでき、幸せな家庭を築くと誓いあったのに…。
彼は、子供ができた途端、お金だけ奪い、逃げるように去って行ったのだ。
当然、その後は大変でお金も無く、どうすればいいのかも分からなくなってしまった。
そんな中、私を救ってくれたのは、今の私の旦那だった。
旦那は、私達の状況を全て理解してくれた上で支えて来てくれた。
そして、いつしかお互い惹かれていったのだ。
『許さない』
その言葉だけが、頭に過り続けていた。
私は旦那が帰ってきた後、この事を相談するとある事を提案してきた。
それは…。
今までされてきた事を、SNSに書き込み拡散してもらう事だ。
私は、その事を決心した。
震える指を必死に抑えながら、私はゆっくりと文字をうった。
自分にしてきた分を、今度は彼が味わえばいい…!
怒りと悲しみを、一つずつ注ぐかのように押すその一文字は、私の思いが込められていた。
そして、私は投稿ボタンにたどり着くと、指がまた震えだした。
「これで、終わる…。」
震えるその手は、中々ボタンを押せずにいると、旦那が手を支えてくれた。
「僕も一緒に押すよ。」
すると、旦那は私の手に包まれた悲しみを取っ払うかのように強く握りしめてくれた。
「ありがとう…。」
それは、悲しみから生まれたものなのかもしれないけど、今は違うのかもしれない。
悲しみがあったから、君に会えたのだから…。
そして、投稿ボタンを二人で押した。
そして、翌朝になるとそのツイートは沢山の人が拡散してくれていた。
「そんな人がいるんだ」とコメントを残す人もいれば、「私もだった」と体験談を残す人もいた。
私は、励ましのコメントを見ていくと、瞳から涙が溢れた。
ずっと、言えずにいたこの思いを誰かに知ってもらう事ができて、ようやく自分が解放された気持ちになったからだ。
「ありがとう…。」
私は、画面越しに映る、コメントを残した人たちに、そして、拡散してくれた人たちに伝えたい。
『人は、支えて、伝えて、共感してもらうことによって、次の朝を迎えられることを…。』
騙されたのは、どっちかな? 神河巫女 @kyouko34
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