寄りを戻そうとする元カノが可愛すぎる件について—カクヨムコン.ver—

星宮コウキ

プロローグ

 藤ヶ谷ふじがやりょう、すなわち僕は愚か者だ。どうしようもない愚か者だ。高校生になった僕は——いや、高校になる前からだが——そんなことを思いながら門をくぐった。


 中学2年の夏頃、彼女ができた。名前は菊原きくはら紅葉くれは。夏休み前に隣の席だったから仲良くなったし、委員会も同じだったので一緒にいる時間も必然と長かったのだ。一緒に帰る(当然僕が送る側だ)と言うイベントも度々発生した。そんな間柄で好意が沸かないはずもなく、おそらく相手もそうだったのだ。


「付き合おっか」

「うん」


 そんな簡単な会話で恋仲となった。お互いの気持ちもなんとなくわかるようになっていたため、無理に飾る必要なんてなかったのだ。


 特に目立ったこともせずにただ委員会がない日も一緒に帰るようになった程度だったが、とても楽しかった。


 そして半年後、進級して3年生になった。2人は別々のクラスになった。それでも最初の方は今まで通りに過ごしていた……いや、、の方が正しいだろう。僕らに大きな障害が現れたのだ。高校受験である。


 僕も紅葉も、親の方針により頭のいい高校を受けさせられることとなっていた。当然勉強時間が増え(特に夏休みからだ)、会う時間も少なくなって行く。塾も違い開始時間が異なっていたため、異なる時間に終わる他クラスのHRホームルームを待っていることも無くなった。さらに僕たちはまだ自分の携帯電話やパソコンを持たせてもらえていなかったため連絡もできず、ついには会って話すこともなくなってしまった。


 そんな微妙な関係になってしまい、互いに気まずくなってしまう。勇気のないヘタレ僕は、そのまま卒業式が終わっても何もできなかった。連絡先さえ交換することなく進学することになってしまった。謂わゆる、自然消滅と呼ばれるやつに値するものである。







 そして現在。僕は無事志望校に受かり、紅葉もまたそのようだった。そのことを嬉しく思いつつも、未練と後悔を抱えたまま高校に上がったのである。しかし、考えていても仕方ない。紅葉のことは割り切って普通の高校生活を送ろうと強く決意した。……しかし、運命は複雑な形で僕に試練を与えた。


「あ、涼ちゃん!俺の後ろの席空いてるからこいよ。自由席だって」

「紅葉ちゃん、ここに座ろー!」


 教室に入るや否や、塾の友達が僕の座る場所を誘う声を聞いた。それと同時に、よく知っている名前が近くで呼ばれるのも聞いた。……え?


 座る前に声の聞こえた方向、隣の席を見る。視界の先には僕と同じ姿勢で、そしておそらく僕と同じように目を丸くしてこちらを見ている見慣れた姿があった。


『あ』


 そう。自然消滅して別れた元カノが目の前にいたのである。どうやら僕の決意は、簡単には守れそうにないようだ。


 ……それにしても気まずい!

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