聡里遥と本日のご飯 ~なんか、家出少女を拾いました~

鼈甲飴雨

序話 ボーイ・ミーツ・ガール

 人の心が読めたら、って時は、誰にだってあるはずだ。

 それは、俺も同じ。

 生まれつき。これは先天的なものだ。

 そして、俺はこれを秘密にして、黙っていた。

「聡里ー、久々にゲーセンいかね?」

 こういう、クラスのおせっかいがある。

 こいつ、内心は、こう思っている。

(また断るんだろうな、付き合い悪いし。つか誘ってやってんだから来いよな)

 ……迷惑な。

 けど、社交性を捨ててるやつとは違い、俺はそこそこあるつもりだった。

「悪い。また誘ってくれ」

 愛想笑いを浮かべてそう答える。

「なんだよー。あ、そうだきいた? 明日転校生が来るんだってさ」(女子らしいけどな、こいつ興味なさそうだもん)

「また中途半端な時期だな」

「だよなぁ。何でだろ。前の学校で問題起こしたとか?」(お、興味ありげ?)

「女子、男子?」

「女子だってさ! なんだよ、興味ありありじゃーん」(ありありじゃーん?)

 礼儀として聞いただけだ。

「可愛い子だといいな」

「そうだよなぁ! いや、俺的に綺麗目の方が色々と捗る」(下ネタ的な意味で)

 これまた露骨な。

 これは感情を読むまでもなく顔がゲヘゲヘしてる。

「じゃ、俺は帰るわ」

「おう。今度は付き合えよー?」(まぁ来ないんだろうけど)

 ……。

 中型バイクを起こして、ヘルメットとグローブを着用して走り出す。

 俺の名前は聡里遥。列記とした男子で、十七歳。

 バイクの免許をとって一年になる。操作を忘れないために、それから慣れるために、バイク通学をしている。家はバイクで三十分と言ったところ。

「……」

 さて、今日もあの場所に行こう。



 誰もいない、穴場なスポット。

 福岡県、夜原郡、夜原町。

 広すぎる『夜原公園』

 泉が湧く、山奥の公園。山の天然水なんて名目で、百円を入れれば水が大量に出るスポットもある。

 そこから離れた小高い場所。

 ベンチがぽつんと置かれてあったその場所に、俺はバイクを停め、やってきていた。

 山は好きだった。

 人がいない。ノイズがクリアになった世界。

 生き物はいるが、思考のない生物の感情は読めない。

 そして、夜に山に入るヤツはあんまりいない。

 たまに、夜景でも見に来たのか、野外でエキサイトするカップルもいるが、基本的に誰もいない。

 特に、この場所は。

 そこでコンビニで買った食べ物を食べる。それが夕食。それが日課。

 けれども、その日は違った。

「あら」

 前髪を一直線にそろえ、長い髪をツインテールという珍しい髪形の少女がいた。

 夜に溶けそうな、黒い髪。瞳は冷たさと、どこか蔑んだように見えている。

 背は低く、何というか、クールな美少女だった。

「貴方も人嫌い?」

 いや、人嫌いならまともに答えるわけがないだろ。

「それもそうね」

「ああ」

 ……ん?

(じゃあなぜ……分かった、誰も見ていないこの開放的な空間で露出プレイをするのが好き、といったところ)

「なわけがねえだろ!!」

「違いますか」

(変態そうな顔をしているから、つい)

 この野郎……!

 ……。

 いや、待て。

 なんか変だぞ。

「君、俺の思ってることが分かるのか?」(ファミチキください)

「ええ」(こいつ、直接脳内に……!?)

 マジかよ。

(そういう貴方こそ、私の考えが読み取れるようね。私、実はDカップ)

 嘘吐け、Aだろそれはどうみても。

「なっ!? Bは……あったり、なかったりするわ!」

 なかったりするのかよ。

「……人に考えを読まれるのは初めてだ」

「私も」

 驚きを隠せない。

「てか、なんでこんなところ歩いてるんだ?」

「キャンプをしようと思いまして」

「キャンプか。下にキャンプ場があるけど、シーズンじゃないから貸し出されてはいないぞ」

「え、そうなの?」

「調べろよ……。そもそも、女の子一人でキャンプってどうなんだ?」

「……実は、引っ越そうとしていた物件なんだけど、その大家さんがうっかり新しい人を入れていたようで……」

「荷物は」

「引っ越し業者さんが……預かってると」

「……はぁ」

 厄介だけど、見過ごせないな。

「む、自力で何とかします」

「女の子一人で野宿とかさせられるか」

 俺は予備のヘルメットを彼女に投げた。

「来いよ。しばらくは何とかなるぞ」

「……わかりました」(いかがわしい)

「いかがわしくはねえだろオイこら!」

 そんな感じで。

 俺は、変な女の子を拾うことになった。

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