第9話二の門通知
「そうか、一の門では我がワシュキツラ以外だとバツナンダラ、トクシャカラ、マナシラが残ったか…… どこもかしこも裕福な国ばかりか。流石だな」
ワシャルは王宮で一の門の結果を聞き支度を始める。
ミリアのいる巫女宮殿にこの事を伝える為だ。
王宮から出ると外は晴れ晴れとして今日もいい天気だった。
ワシャルは大陸の中央を見る。
そこには遠くにうっすらと天空の城が浮かんでいるのが見える。
あそこで一の門が開かれそしてもうすぐ二の門も始まる。
まだ大巫女からの通達が無いが、次の二の門、そして最後の三の門を勝ち進めばミリアが大巫女となる。
ミリアが大巫女となれば出身国であるワシュキツラ王国はその力を増す。
巫女の出身地は中央の「世界の柱」での祈りがその出身国にも影響を及ぼし大巫女を続ける限り作物は豊作になり、土地はうるおい、国力が増す。
現に今の大巫女の出身地であるトクシャカラ王国はそれまで貧しい国で作物もあまり良く育たず、人々は日々の暮らしですらままならないでいた。
それが現大巫女が選定に残り貧困を極めたあの国はいまでは世界で一番豊かな国になった。
ワシュキツラ王国も決して豊かとはいえない。
しかしこの大巫女選定に勝ち進み、ミリアが大巫女にさえなれば。
「ミリア様…… 小鳥遊京子に赤眼の魔女クルム。彼女らがいればきっと……」
ワシャルはそうつぶやき馬にまたがるのだった。
* * * * *
「食材が不足しているのですか?」
今日のお祈りが終わり、京子に食事を作ってもらってからミリアはそう聞く。
「はい、一の門以来買い出しには宮仕えの人が行ってくれるのですが、その、もう少し色々な食材が欲しいんですよ。何と言うか、食材が限定された物ばかり買ってきてもらっているので……」
京子にして見ると連日ジャガイモをメインとした食材で何かを作ると言っても限界が来てしまう。
どうも巫女神殿では食事は質素なものが奨励されている様だがそれにも限度と言う物がある。
一緒に買い出しに行こうとすると「小鳥遊京子様は神殿にてお待ちください」と言われなかなか外にも出してもらえない。
「ふむ、キョウコの料理はどれも美味いが、確かにだんだんジャガイモに戻って来たな」
クルムは茹でたジャガイモを口に運びながらもごもごと咀嚼している。
クルムに作ってもらった保冷庫のお陰で肉や魚、痛みの早い食材も長期保存出来るようにはなったのだが。
流石に毎回買い入れるのがジャガイモがメインで後は人参や玉ねぎ、小麦粉など長期保存できるものばかりだった。
「困りましたね、ハンナさんに相談してみましょうか?」
ミリアがそう言っているとちょうどハンナがやって来た。
ミリアはにっこりと笑いながらハンナを呼び、今までの話をするのだが……
「とんでもございません! 今この宮殿の台所事情をご存じでしょうか? 一の門選出に買い入れた食材だけでもこの神殿の経費のほとんどを使ってしまっているのですよ!?」
「ええぇとぉ……」
ハンナに言われミリアは頬に一筋の汗を流す。
確かにこの神殿の運営は全てハンナに任せていた。
ハンナたちがクルムが来た時に慌てて逃げ出したものの、その運営資金はそのままだったのでミリアは何も考えず京子たちにそれを全部渡してしまっていた。
なので戻ってきたハンナがその状況を知った時にどれだけ頭を悩ませたことか。
信者のお布施や国からの給付金だけでどうにかこの神殿を回していかなければならない。
さらにこの神殿の地下には赤き竜が封じられている。
その昔にこの国の巫女がワシュキツラ王国で暴れまわっていた赤き竜を捕らえこの地に封印した。
そして代々巫女の力でこの地下から出て来る事を押さえていた。
しかしいくら押さえていたとしてもその餌代はかかる。
そうしなければまた暴れまわって地下から出て来ようとするだろう。
そうした時に今のミリアだけでは押さえきれるかどうか。
それほど以前の巫女は優秀であった。
「赤き竜は私と契約をした。間者の娘を贄にしたので当分は大人しいぞ?」
クルムは食事を終え、お茶を飲んでからそう言う。
京子は初めて自分がこの世界に呼び寄せられた時を思い出す。
あれはトラウマになるだろう。
「で、でも二の門ももうじき始まりますし、何とかしないと……」
ミリアがそう頭を悩ませていると宮使いの者がやって来て来客だと知らせる。
放っておくわけにもいかず、ミリアたちは顔を見合わせその来訪者に会いに行くのだった。
* * *
「ミリア様、お元気そうで何よりです」
「ワシャルさん、ようこそ」
「ワシャルさん、こんにちは!」
客間に通された来訪者はワシャルであった。
あの後ナンダラに勝利して国王に報告に行ってそのままだった。
そしてワシャルはあの後に王国に一の門の結果を通達された内容をミリアたちに話始めた。
「そうですか、ロメやカナム、シャンファたちも……」
言いながらミリアは自分の胸につるされているペンダントを握る。
今ミリアが言った者たちは一の門で敗れた者たちだった。
「残るはバツナンダラの巫女ヒルディア、トクシャカラの巫女サユリ、そしてマナシラの巫女アマリエです」
ワシャルにそう言われミリアはぐっと唇をかむ。
二の門、そして三の門を勝ち抜くと言う事は残りの者たちの命も自分の首にかかげるペンダントに吸収しなければならない。
逆に破れればソエの魂とミリア自身の魂を勝者に渡さなければならない。
ミリアがそう思った時だった、ワシャルはテーブルの上に箱を差し出した。
「これはこの度ナンダラに勝利したミリア様に国王陛下からです。次の二の門もどうか勝ち抜いてもらいたいと仰せつかっています」
「これは?」
ミリアはそう言いながらその箱を受け取り開くと中には大金貨が沢山入っていた。
それを見てミリアは大いに驚く。
「これほどのお金を?」
「はい、一の門の時には間に合いませんでしたが国王も大いに期待をなされています」
「ミリアさん、これでハンナさんにお願いして食材を買い入れましょう!!」
京子は思わずそう言うとワシャルは京子に向かって軽く頭を下げてから言う。
「小鳥遊巨子殿、この度のご助力陛下も大変喜んでおられました。どうか次の二の門も勝ち進んで頂きたい」
「それは……勿論です。私も決めました。私に出来る事は最大限にやります!」
既に決心をした京子は背筋を伸ばしてこちらも軽く頭を下げる。
自分の料理にミリアの命がかかっている。
それはとても残酷な事だが勝ち進まなければならない。
「大丈夫だ、キョウコの料理は美味い。来たか」
ずっと黙っていたクルムはそう言い窓の外を見る。
すると窓から見えるその中庭に一匹の飛竜が降り立った。
ワシャルは緊張しな立ち上がるが、それが天空の城からの使いだと気付くと腰にある剣に手をかけていたのをやめる。
「あ、あれって天空の城にいた兵士さん? クルムあれって!?」
「うむ、いよいよ二の門が開催されるのだろう。ミリア様」
「はい、分かってます」
ミリアはそう言いながら立ち上がり中庭まで出て行く。
すると飛竜に乗ってやって来ていたその兵士はスクロールを引っ張り出しミリアの前で跪き差し出す。
「ミリア様、大巫女様からの通達にございます」
ミリアは跪くその兵士からスクロールを受け取る。
そして封の紋様を確認してワシャルたちに向かって宣言する。
「次の相手はバツナンダラの巫女ヒルディアです。ソエ同様に私はこれを持ってバツナンダラに向かいます」
「え? ここでスクロールを開けないんですか?」
「小鳥遊京子さん、このスクロールは私に今回渡されました。渡された巫女は封の上にあるもう一つの封の紋章、今回はバツナンダラのヒルディアの元に行き双方が掲げるペンダントがそろうと封が切れます。そして二の門の課題が提示されるのです」
京子はソエが来た時を思い出す。
確かに二人そろってからスクロールを開いていた。
「ハンナさん、飛竜の準備を」
ミリアがそう言うとハンナはすぐに指示を出して飛竜の準備をする。
「私もついてゆこう。ハンナ殿もう一頭飛竜を願います」
「あ、わ、私もついて行きます!」
「ふむ、勿論私も行くぞ」
こうしてミリアたちは二の門の対戦相手バツナンダラ王国の巫女、ヒルディアに会いに行くのだった。
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