45|4Cの覚悟〈4〉

4Cフォーシーは、この階段の上だ!」

「急げ、急げ!」

「急いで、やつをフォローしろ!」


 螺旋階段の下のほうから、‘バタバタ’と階段をのぼる複数の足音とともに、口々に叫ぶ青年たちの声がきこえた。それは4Cの相棒と、4Cを慕う新人バスターズたちの声だった。


「あいつら…トンネルで待機してろといったのに…」

 サクラの目のまえで、4Cは眉根をよせて苦渋の色をうかばせる。


「サクラ、行け! これが最後のチャンスだ」

「わ、わかった…私、行く!」

「よしッ」

 4Cは、強くうなずき、サクラをうながす。

 サクラ自身、4Cに言われるまでもなく、心はすでに決まっていた。


(4Cを信じて、前へすすむ――!)


(当たってくだけろ――!)


『 その調子だ! 』と、トモヒロのエールが聞こえ、サクラの中に勇気と希望がわいてくる。本来の調子を取りもどしたことを、サクラは実感する。


「サクラ、早くーーーッ!」

 そのタイミングで、ボートのそばで出発の準備をしていたツトムが叫ぶ。

 それを合図に、サクラはくるりと背を向け全力で走った!


『 俺は、ずっときみを… 』


 いつかまた、その言葉のつづきを聞くために、その言葉をここへ残し、すべてを断ち切ってサクラは走る!


(4Cが、つないでくれたチャンスを…)


(ぜったい、無駄にはしない!)


(4Cのために、走る!)


(ぜったい、ここから脱出する!)


(いつかまた、4Cと再開するために…!)


「ツトム、サクラを守れ!」

 サクラの背後で、4Cが叫ぶ。


「ああ…わ、わかった!」

 ツトムは、4Cに視線をおくり、何度も何度もうなずいた。


 はるか下のほうから聞こえていたバスターズの叫び声は、あっという間にボリュームをあげ、階段の真下まで迫ってきていた。


 ふと――その声をとらえながら、サクラは、いやな予感にとらわれた。


(ちょっと、まって…)


(私たちが、逃げたあと…)


(4Cは、いったいどうなるの…?)


 この状況で、いとも簡単に〈エムズ・アルファ〉たちに逃げられたことを、バスターズは信じるだろうか。4Cは、どう言いわけをするのだろうかと…。


 だから、サクラはふりかえったのだ。


 ボートに足をかけた瞬間――それは、本当に、なにげなく。


 そして――ふりかえった瞬間、サクラの心臓が‘ドクン’とはねた。


 4Cは、自分の腰にげているヒップホルダーから銃を抜き、あろうことか、銃口を、自分の足――太腿ふとももにぴたりとつけ、いま、まさに引き金をひこうとしているところだったのだ。


 その光景をみた瞬間、サクラは「だめ…!」と、小さく叫んでいた。


 だが、そんな言葉で、状況をとめることなどできるはずもなく…。


 つぎの瞬間――地下通路のオレンジ色に染まる空間に、耳をつんざくような銃声が響きわたった――!






‘ ド・ゥン……!!!  ’






 そこからは、まるでスローモーションの映像のように、サクラのまわりがゆっくりと動きはじめる。


 飛び散る鮮血。


 床にくずおれる4C。


『 4Cィィィーーーーーー……!!! 』


 自分の叫び声さえも、夢の中の出来事のようにきこえ、


『 サクラ、来るなぁーーー…!!! 』


 4Cが苦悶の表情で叫ぶ声も、フィルターを通したようにぼんやりときこえ…。


『 サクラ、行っちゃだめだ…! ボートに乗って…!!! 』


 4Cのそばに駆けもどろうとするサクラを、ツトムが背後から抱きとめる。

 それらの動きも、すべてがスローモーションのようだった。


『 い、いやぁぁーーーーーー……ッ!!! 』


 それから4Cは、自分の足を撃った銃を、水路に向けて放り投げる。

 銃はスルスルと床をすべり、サクラの横を通りすぎて、水の中へ落ちてゆく…。


 サクラの意識だけが覚醒し、銃が水中に落ちる瞬間の小さな飛沫ひまつの一粒一粒まで、はっきりと見てとれた。

 その水の《玉》が、ゆっくりとはねて水路の下へ落ちて消えてゆくさまを、サクラはぼう然と見つめていた。


 その中で、サクラはようやく理解する。

 これが、4Cのだったのだということを。


『 ツトム、行け…! 』

『 うん、わかったッ 』


 絞りだすように言葉をはきだす4Cに、ツトムは小さく相槌をうち、かまわずボートを発進させた。


 そして、サクラをのせた軍用ボートは、地下水路の水の上を、うなりをあげながら遠ざかってゆく…。


 サクラの叫び声は、ボートのエンジン音と水飛沫の音に容赦なくかき消され、サクラの〈想い〉も、また、黒い水底へ引きずり込まれ、あっという間に引きちぎられた。



          ***



『 4Cィィィーーーーーーーーーーー……… … … … !!! 』





















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