43|4Cの覚悟〈2〉

 そう――4Cフォーシーは、最大にして最強の〈味方〉だった。


 彼の計画は、サクラが覚醒し、独房に囚われた時からはじまっていた。サクラを、いかにして研究施設ここから逃がすか、いかにL=6エル・シックスに気づかれず計画を遂行するか――そのときから、4Cは考えはじめた。


 はじめに決めたことは、「この計画はひとりで進めなければならない」ということだった。


 4Cには、仲間がいる。

 彼に賛同する〈エムズ擁護派〉の仲間や、OBBオービービーのように先輩として慕う後輩たち…彼らに声をかければ喜んで協力してくれたはずだが、計画が発覚したとき、彼らにふりかかるリスクは大きい。

 彼らの人生を守るには、ひとりでやるしかなかったのだ。


 そのためには、自分のまわりの人間、すべてに嘘をつき続ける必要があった。

 そして、それはサクラに対してもだ。サクラを傷つけ、「裏切り者」として恨まれることになっても嘘を突きとおす。


 そのために4Cは、ラボの実験にも立会い、KTケーティとことさら仲良く話し、L=6に協力していることをアピールした。


 もちろん、実験で使われる〈G-ウィルス〉は、サクラの体内に注入されても害がおよばぬよう黒く色付けされた〈生理食塩水〉とすり替えておいたものだ。

 頻繁ひんぱんにラボに出入りしている4Cには、真夜中に、こっそり侵入し、すり替えるなど造作ぞうさもないことだった。


 つまり――あの〈男〉…注射器がひたいに刺さって、半狂乱でわめいていた彼は、4Cのおかげで命拾いをしたことになる。


 男は、いま、隔離病棟のベッドに横たわり、すやすやと寝息をたてていた。そのかたわらで、L=6は、その男の寝顔をみつめていた。

 自分の息子の裏切りを知り《いきどおり》をほほえみの中に閉じこめて…。



          ***



 それから、実験中に4Cのしたことはもうひとつ――ラボを抜け出し、サクラの〈スマホ〉を保管庫へ移動させたことだ。


 サクラが不在中の独房は、ラボのスタッフが掃除もかねて隅々まで確認することになっている。L=6の手に渡れば、二度とサクラの手元にはもどらない。


 だから、保管庫の管理を任されているAKBエーケービーに頼んで〈保管〉させてもらったのだ。もちろん、彼女にもサクラを逃がす計画は秘密だった。ただ、何くわぬ顔で、軽く、彼女をおどしたのだ。


「な、聞いてくれゴリリン。あんた、審査ルームで宮本咲良みやもとさくらを審査したとき、ポケットの中身をチェックし忘れただろ? 彼女はいろいろ持ってたぜ?」


「いやいや…あんたのミスを気はないよ。ただ、それがL=6にバレたらやばいんじゃないかと思ってさー…」


「ここで印象悪くしたら、今年も故郷へ帰れなくなるんじゃないかと心配なんだよ。あんた、故郷に帰りたいだろ? 息子には何年会ってないんだっけ? さぞ、会いたいだろうなぁ…俺とおなどしの息子にさ…」


「だいじょうぶ、俺がなんとかしてやるよ!」


「だから…」


「保管庫のカギを、渡してくれ…」



          ***



 そうして――4Cが着々とサクラを逃がす計画を準備している矢先、ツトムとサクラは脱出計画を企て、実行にうつした。


 4Cがそれを知ったのは、あの研究施設のB7の地下空間――封鎖していた壁をゴースターが破壊し、そこにふたりの足跡を発見したときだった。


 それは、少なからず4Cをうろたえさせた。サクラにだけは真実を話しておくべきだったのかと、後悔の念が押しよせた。


 だが――いくら反省したところで事態は変わらないと悟った彼は、気を取りなおし、頭をフル回転させ、まず、サクラたちを足止めさせようと、OBBに〈軍用倉庫〉で捕らえるよう命じた。


 それが失敗し、バイクで逃走したと報告があったときは、すぐに〈南ゲート〉を封鎖し〈北〉へとルートをかえさせ、この地下水路へと導いた。


 そこまで来れば、きっとふたりは〈ハッチ〉を見つける。必然的に地下水路にたどり着くはずだと思ったのだ。


 すべては、サクラの〈命〉を守るため――サクラを逃がすために…。



          ***



 こうして――4Cが、全身全霊をかけて打った大勝負は、吉とでるか、凶とでるか…それはすべて〈サクラ〉の行動ひとつにゆだねられることとなった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る