第1章「謎の研究施設」
02|漆黒の闇〈1〉
扉の向こう側に足をふみいれると、その扉はサクラの背後で音もなくすぅっと閉じた。
それが、どれほど重大な出来事だったか、サクラは知らない。夢の中なのだから、なにが起きてもどうということはないと、あいかわらず思っていた。
だが――数秒のち…
いままで、霧がかかったようにぼんやりしていたサクラの意識は、夢から覚めたかのようにはっきりと目覚めたのだ。
(あれ…なんかリアル…)
頭も目も耳も、手足の感覚も、五感のすべてが一瞬で目覚める。
そして、すべてがクリアになった瞬間――サクラの視線の先に、異様な光景がひろがっていることに気づき、心臓がどくどくと波打ちはじめた。
(こ、これは…なに?)
それは、巨大な〈穴〉だった。
サッカーコートがすっぽりと入ってしまうほどの大きさの穴は、ブラックホールのような口をあけ、不気味に、そこにたたずんでいた。
この場所で、爆発事故でもあったのだろうか。
その穴のまわりには、コンクリートの破片がとびちり、その淵は巨大なハンマーで叩き割られたような亀裂があちこちに走っている。
ところどころに、コンクリートの床を支えていたであろう鉄骨の骨組みが、ちぎれ、ねじ曲がり、血のように錆びついた地肌をのぞかせていた。
そもそもこの空間自体が、鉄骨とコンクリートでおおわれた軍事施設の格納庫のような巨大な空間だ。
はるか頭上に見えるアーチ型の天井や、遠くに見える壁には、古びた配線コードや、破損したままのダクトホースなどが、ある部分はちぎれ、ある部分は垂れ下がり、哺乳類の血管のように張りめぐらされている。
そしてこの空間全体が、じっさいは無機質であるにもかかわらず、生き物がゆっくりと呼吸をしているかのように思えるのだ。
それは、どこからともなく断続的に聞こえてくる‘ ブォ…ン ’という機械音のせいかもしれなかったし、その音とともにわずかに震える微振動のせいかもしれなかったが、サクラはこのあまりにも異様な光景がリアルすぎることに、恐怖を感じずにはいられなかった。
それでも、まだ「これは夢だ」という思いはあり、恐怖心と好奇心の狭間でサクラの心はゆれうごいていた。
目の前に、真っ黒な口をあけて横たわるその闇は、どこまでも深く不気味だった。
どんなに目を凝らしても闇の底はみえず、そもそも〈底〉があるのかさえ疑わしいほど、その闇は濃く、深く、近づけば近づくほど、その暗闇に吸い込まれてしまいそうになる。
それでも、サクラは、もっと近づいて観察してみたいという好奇心にもさからえず、床に手とひざをつきながら、すこしずつ、すこしずつ、恐る、恐る、ゆっくりと歩をすすめ、その
(これは、本当になんなの…?)
…と、そのとき――〈闇〉が動いた!
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