サクラ🔸イン🔹アナザーワールド(第二章クライマックス中!)

押羽たまこ

01|プロローグ/扉の向こう側


 この宇宙で起きている、すべての出来事には理由がある。

 もしも、宇宙そのものに〈意思〉というものがあるのなら。



          ***



 気づくと―――

サクラは、コンクリートで覆われた殺風景な通路の真ん中に立っていた。


 頭の片隅で、これは〈夢〉の一部だとぼんやり感じている。リアル感がまったくなかったからだ。


 裸足で歩いているのにコンクリートの冷たい感触もなく、窓も照明もないのに、ふわふわと明かりがただよう不思議な空間…。


 それでも、それを不思議とも思わず、そのまま目の前の状況を受け入れていた。

夢とは、そういうものだろう。


 頭の中にもやがかかったまま、夢遊病者のようにのろのろと歩いてゆくと、まっすぐのびている通路の先が行き止まりになっていた。


 歩くたびにズキズキと痛む足と、フラフラする頭に悩まされながら、ゆっくりと近づいてゆく。


 すると――行き止まりの壁に、マジックペンのようなもので、小さく『EXIT→』と書かれた落書きが浮かびあがる。


(イグジット? こっちに出口があるってこと…?)


 首をかしげながら、サクラは、その右矢印の方向に視線をむける、と――袋小路だったはずの壁の右側に、とつぜん新たな通路が出現した。


(あ、まだ先に行けるんだ…)


 サクラはその現象に驚くこともなく、好奇心のおもむくままに、またフラフラと歩きだす。


 そのとき――‘ パタパタパタ… ’と、誰かが走る靴音がきこえ、サクラはあわててその足音を追った。


(誰かいる…)


(誰…?)


 ちらちらと人影はみえるが、正体はわからない。


(子供だ…)


 ちらちら見える影は、小さな子供。そして、小さな足音。


(まって…!)


 サクラは、子供を追いかける。


(あ…!)


 すると、また、さっきと同じような行き止まりの壁になり、子供の気配はそこで消えた。そしてまた『EXIT→』の落書きがあり、右横に通路がのびていた。


(また…?)


 だが――その通路は、そこで終わっていた。


 その先には、巨大なブルーグレイの〈扉〉が、サクラの到着を待ちわびていたかのように、悠然と威厳をもってそこに立ちはだかっていたのだ。


(こ、これは…)


 サクラは、圧倒されたようにその〈扉〉をあおぎ見る。


 その巨大な鉄扉には、取っ手らしきものがどこにもなく、サクラは、その重厚な扉をまえに、たじろぎ、息をのむ。


(これ…どうやって開けるの…?)


 サクラは、おそるおそる近づき、そっとその扉にふれてみる。

 すると――それは、軽くふれただけで、まるで紙のように、いとも簡単に外側へふぅーっと動いたのだ。


(あ…)


 そうして、サクラは、ぼんやりとした思考のままに、その〈世界〉へと足をふみ入れた。


 それは、本当に、なにげなく――夢のつづきが知りたくて、好奇心のおもむくままにふみだした一歩だった。


 だが――サクラは知らない。みずからふみだした、なにげないその一歩が、ひとつの世界の〈運命〉を大きくゆるがす一歩になったということを…。



 そして、それは――長い長い〈悪夢〉のはじまりだった。





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