運命共同体
yurihana
第1話
高校2年生のサクラは同じクラスのハルと仲が良かった。特に仲良くなったは、6月の中頃。サクラの祖父が亡くなり、心が弱っていたときにハルが支えてくれた。
その時からハルはサクラにとって、かけがえのない存在になった。
二人は何をするにも一緒だった。おそろいの髪型にし、学校の授業選択だって同じものを選んでいた。長い間近くにいると性格がお互いに似てきたようで「まるで双子みたいだね」と言われたこともある。
「大好きだよ、ハル」
「私もだよ、サクラ」
「私達は運命共同体だよ!」
「ずっと一緒にいようね!」
「「指切りげんまん、約束だよ!」」
そんな中、1月にハルが入院をした。
夕食の後、急に倒れたと聞いた。
命の危険はないが、ひどく衰弱しているらしい。
サクラは急いで病院へ駆けつけた。ベッドに横たわっているハルは、いつもよりずっと小さく見えた。ハルはサクラを見ると困ったように笑い、
「サクラ、心配させてごめんね。でも大丈夫!すぐ良くなるよ!」
と言って親指をグッと立ててみせた。
だが、サクラは心配でたまらなかった。
ハルの体調はなかなか良くならない。
食欲も戻らなかった。
ハルが食べやすそうなお菓子を作って病院へ持っていったが、ハルはほとんど吐き出してしまう。
それでも、一生懸命ハルは食べ物を食べようとしていた。しかし、食べる度に容態は悪化していくようにも見えた。
「大丈夫!もうすぐ治るよ!」
ハルはそう言って笑うが、サクラの不安は消えなかった。
ある日、サクラがいつものようにお見舞いに行くと、思い詰めた様子のハルがいた。
「ハル、大丈夫?何かあったの?」
「……」
「困り事があるなら、何でも話してよ!
私達、親友でしょ?」
「……」
ハルはためらっていた。
ちらり、とサクラの顔を見る。
サクラの今にも泣き出しそうな顔をしていた。
サクラはこんなに自分を心配して……。
ハルは少しずつ話し始めた。
「入院費がもうないんだ……」
その言葉からハルの話は始まった。ハルの家には元々、長期間入院できるようなお金はなかった。親が必死の思いでお金を集めたが、大した金額にならず、ここまで入院出来たのは奇跡のようなものだった。
「そしたら私がハルの入院費を集める!」
気がつくとサクラは叫んでいた。隣にいる患者が迷惑そうにサクラを見たが、サクラはかまわず続けた。
「私達は親友でしょ! どうしてもっと早く言ってくれなかったの……。言ったでしょ、私達は運命共同体だって! ハルの苦しみは私の苦しみなの!」
はっとして言葉を止める。興奮してきつい口調になってしまった。
ハルの顔を見ると、ハルは涙を落として「ありがとう、ありがとう」と繰り返していた。
サクラは使命感がより強くなっていくのを感じた。
とは言っても、サクラに出来ることは限られていた。親の金に手をつける訳にもいかない。
サクラは自分のものを必要最低限残して、後は売ることにした。
また、僅かな望みにかけて、道端で募金を求めることにした。
お金はなかなか集まらなかった。だがサクラは諦めなかった。ひたすら声かけをし、暑い日も寒い日も必死にお金を集めた。
しかし、それでも入院費を十分に集められなかった。お金が完全に尽きるのも時間の問題だった。
「誰か、誰でもいい! 少しでいいからハルのためにお金を下さい。本当にハルは苦しんでいるんです! お願いします! どうか……」
お見舞いから帰ろうと、病院を出た時、上から何かが落ちてきた。
ハルの病室に置いてあった植木鉢。
植木鉢は窓際に置かれていた。風で落ちただけだろう、そう考えることもできた。
しかし言い様のない不安がサクラの心を覆った。
もしかしたらハルの身に何か起こる前触れではないのか。
やがて不安は焦りへと変化した。
11月の終わり、サクラが救急搬送された。体を酷使したことと、強いストレスが原因だった。
ハルのために自分のものを売った後の、帰り道での出来事だった。
サクラはハルの隣のベットへ運ばれた。
小さい病院だったので、空いているベットが限られていたのだとか。
二人は顔を見合わせ、何も言わずに微笑んだ。
二人の体調は比例するように悪化していく。
互いの運命を悟った時、
二人は静かに涙を流した。
その顔は、ひどく穏やかだった。
窓から心地よい風が吹く。
窓際のベットには二人の少女が安らかに眠っていた。
短い人生だというのに、二人は幸せを抱きしめてこの世を去った。
天国、地獄があるのなら、きっと二人は仲良くそこへ向かっていることだろう。
後日判明したことによると、サクラはずっと前からガンを患っていた。余命は春を迎えられれば良い方だったという。
『私達は運命共同体』
この言葉はどこまで真剣な言葉だったのだろう。
ハルは突然倒れ、段々と衰弱した。
原因を断定できるものは見つからなかった。
日々の習慣や、ストレスが主な原因だったのかもしれない。
食事もろくにできなかった。
加えて、ハルはサクラの料理を消化する前に戻してしまった。
病院食は吐き出さなかったというのに。
これは果たして偶然だろうか?
サクラがガンと診断された後にハルが倒れた。回復の見込みがなかったハルの病室から、植木鉢が丁度サクラの上に落ちてきた。
これは果たして偶然だろうか?
今となっては誰も分からない。
ただ、二人が息をひきとったのは、
桜が舞い散る春の日のことであった。
運命共同体 yurihana @maronsuteki123
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