真夏の声と。

マフユフミ

第1話

その年の夏は一段と暑かったように思う。


ジリジリ照りつける陽射しの中、何ていう事のない日々は過ぎていく。

毎日知らされる、最高気温を更新したというニュース。

熱中症で搬送される老人の話題。

そんな真夏の日々にあって、溶けそうで、それでも決してこの存在は溶けてなくなることがない。


その事実に安心するのか落胆するのか。


何も分からないまま、夏の熱に飲まれる。

そしてそれを、いけないことだとも思わない。


与えられているたくさんの課題、今が一番の正念場と言われる受験勉強。そんなものはすべて、自身の感覚の外だ。

現実と呼ばれているものに対し、全くと言っていいほど実感がない。

それでも、それらのノルマを淡々と、淡々とこなす。

こんなの、まるで機械のようだ。


それでも時というのは過ぎるものなのだ。

得るものもなく失うものもなく、ただひたすら汗をかいて。

泣き喚く蝉の声はもはや静寂に等しい。

体中に纏わり付く静寂に身を委ね、一つずつ時をやり過ごし。

こうして、無為な夏休みは過ぎていったのだった。


迎える9月。

目の前に広がるのが、これまでと全く違う景色になるとも知らず。


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