魔王消滅、そして
ぱぁと
第1話 魔王が消えてから
勇者のパーティーが魔王を倒して早五年。
魔王消滅から一年くらいはとても平和だった。
人々は破壊された街や村の復興に精をだし、皆、明るい顔をしていた。まだ沢山の雑魚モンスターがウロウロしていたが、元冒険者が用心棒となって村を守っていた。
また、沢山いた元冒険者たちが建物や畑、道路などの修復に貢献し、復興は順調。しかももう、家を壊されたり、畑を荒らされたりする心配もないのだ。
魔王が倒された今、新たなモンスターは生まれないのだから。
人々は希望に満ち、この平和が続く事を疑わなかった。
様子がおかしくなって来たのは平和になって二年目くらいからだろうか。
街の復興はほぼ終わり、回りからモンスターも一掃されて、用心棒が不要になってきた。
元冒険者たちは仕事がなくなった。
そこで、わざわざ街から離れた山や沼まで出かけて行ってモンスターを街まで誘導し、自分達で仕事を作る者もいた。
しかしそんな事も長くは続かない。効率は悪いし、まだ残っているモンスターは強く、割りに合わない。そのモンスターとて、もう残る数は少ない。
金に困った元冒険者の中から、盗賊や山賊になる者が出始めた。
また、宿屋も困っていた。冒険者が居なくなって、宿泊客が激減したのだ。今まではまだ酒場の売り上げでなんとかやってきたが、その酒場も最近はガラガラの状態だった。
加治屋も困っていた。武器・防具の注文がなくなり、売れるのはクワや手斧、布の服など安物ばかりで収入がガタッと落ちた。これでは家族を養っていけない……。
詐欺や盗みが頻発するようになり、金目当ての殺人まで起こるようになった。
人の敵は魔物から人になり、人々の心が荒んで行った。
「これが平和だろうか……」
皆がそう思っていた。
勇者は生まれた村に帰って……暇をもて余していた。
王様に貰った沢山の褒美のおかげで食ってはいけるが、仕事はない。
昔は良かった。気の合う仲間との熱い冒険の日々。行く先々でちょっとした事件を解決しては「英雄」ともてはやされ、何より「魔王討伐」と言う目標があった。今や昔を懐かしむだけの隠居の身……。
若いのに。
そんなある日、王様から呼ばれた。
「やった!きっとまた魔物が出たんだ!」
勇者は大事に取っておいた超豪華装備一式を身につけ、勇んで城のある都に出掛けた。
道中、何事もなかった。
モンスターは居ないし、盗賊連中は勇者の姿を見ると逃げてしまう。
「つまらん」
王都に着くと、懐かしい顔があった。
「おー!魔法使いじゃん!」
「あら勇者、久しぶり!あなたも王様に呼ばれたの?」
「うん。て、ことは」
「アタシもよ。あら、あれは……」
「おーい!勇者に魔法使い、元気だったか!」
「戦士!あ、弓使いも!」
「な〜んだやっぱり、皆呼ばれてたんだね〜」
「あれ、僧侶は?」
「あー……僧侶な、山賊にやられちまった」
「えー?僧侶が居ないと冒険はムリよねぇ」
「ま、まあ取りあえず、王様の所に行ってみよう」
勇者のパーティーは城へ向かった。
「よくぞ参った!勇者よ!」
「王様、ご無沙汰してます。魔王復活ですか!?」
「…………まあ、そうじゃ。ところで一人、足りないようだが」
「僧侶は不慮の事故で……」
「ふむ、そうか。僧侶がおらんのか……」
「あ、大丈夫です!どっかで調達しますから!」
「……まあ良いだろう。詳しい話は明日にして、今夜は存分に英気を養ってくれ」
勇者一行は旨い酒と豪華な晩餐でもてなされ、大いに楽しんだ。
───目が覚めると、全員、牢屋の中にいた。
「うーん、飲み過ぎた……あれ?」
「あ、勇者、起きた?」
「魔法使い……なんだ、これは」
向かいの牢屋には戦士と弓使いがいる。皆、下着姿だった。
「どうなってるんだ?……はっ、早速魔王の仕業か!?」
「そうではない」
「あっ、王様!」
「なんだよコレ、オレ達の装備は!?」
「お主たちの装備は宝物庫にしまってある。……次の勇者のために」
「……次の勇者?」
「どういう事よ!?」
「まずはワシの話を聞いて欲しい。お主たちにこの国を救って欲しいのだ」
「だから、魔王を倒すんだろ?」
「違う。魔王になって貰うのだ」
「はあ!?」
「勇者よ、魔王亡き後の……今の世界をどう思う」
「えーと、平和?」
「本当にそうか? 戦士、お主はどうじゃ」
「…………」
「魔法使い、そなたは」
「……ギスギス、してるわ……」
「弓使い」
「ボクは前の方が良かったな〜」
「弓使い、何を言ってるんだ!」
「勇者はど田舎に住んでるから、知らないのよ。街の惨状を」
「なんだと!」
「まあ待ちなさい。……今、この国の民は心がバラバラなのだ。何故かわかるか、勇者」
「わかりません」
「…………」
「……魔物が……魔王が、いなくなったからか?」
「その通りじゃ、戦士よ」
「そんな、何で!苦労して魔王を倒したのに!?」
「勇者よ、民衆が一つになるには、敵が必要なのじゃ。皆が心を一つにして立ち向かわなければ倒す事が出来ない、強力な敵が。そしてそれを倒し、その後に来るであろう平和を夢みるからこそ、日々の苦労を耐えるのじゃ」
「だったら何で、魔王討伐させたんだ」
「……勇者は、希望じゃ」
「つまり、こういうことね。魔王という不安と恐怖で民衆をまとめ、勇者という希望で民衆が自暴自棄になるのを防ぐ。……国の安定のために」
「さすがじゃな、魔法使い」
「で〜? ボク達、どうなるの〜」
「言ったであろう。魔王と、その配下の四天王……には一人足りんが、その役割を担ってもらう」
「イヤイヤイヤ、僕たち人間だから」
「歴代の魔王だって元は人間じゃ」
「!?」
「……いささか、疲れたな。話はここまでじゃ。後はこの、大賢者に聞いてくれ。では勇者よ、この国を救ってくれ!──さ、大賢者」
「かしこまりました。では────スペシャルギガスゴイワーーープ!!」
「まてまてまて──────」
「……すまぬ、勇者……」
王様の声が消えてゆく────。
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