器用貧乏

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 器用貧乏の解説 -

 三省堂 「新明解四字熟語辞典」より

 きよう-びんぼう【器用貧乏】

なまじ器用であるために、あちこちに手を出し、どれも中途半端となって大成しないこと。また、器用なために他人から便利がられてこき使われ、自分ではいっこうに大成しないこと。

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 器用貧乏という言葉を聞くと少しばかり複雑な気持ちになります。

 わたしは器用ではないけど、意外にも適応性はそれなりにあると思います。

 生真面目な一面もあるから、中くらいまではいけたりする。

 でも、頭打ちです。飛び抜けた何か光るものとかはない。


 これは詩の方でも昔、ある編集者の方に言われたことがあります。


 少し、この話をしますと、この頃、ネットの詩のサークルで活動していたのですが、その一員のお友達に、とても感性豊かな詩を書かれる人がいまして。

 仲良くさせていただいていたわたしも、彼女の詩、大好きでした。


 このサークルはオープンだったので、勿論、外部からのコメントも可能です。


 そんなある日、彼女の詩にこんなコメントがつきました。

「あなたの書かれるものには人とは違う人には書けない魅力がある。だからこそ、こんな馴れ合いサークルにいてはダメだ。才能が死んでしまう」


 見る人から見れば、そう見えたんでしょうね。

 このあと、この方と少しやり取りする機会があった時に聞いてみたのです。

「彼女がキラリと光る才能を持っているのはわたしもわかります。確かにその才能をこの場に縛りつけようとは思いません。でも彼女が望んでサークルにいるのに、失礼ですが第三者であるあなたが、そこまで言う権利はないのではありませんか?」と。


 その方の答えは

「実は僕はプロの編集者です。

 あなたが丁寧にお尋ねになるので、お答えします。正直、このサークルの方々はそこそこに文章力も持たれていると思う。つきのさん(この頃は別のペンネームでしたが)もそうです。でも申し訳ないが、それだけです。

 器用に書かれているが、光るものはない。

 そして、可能性のある彼女が、このぬるま湯の様な場所にいては才能をダメにしてしまうと思ったのです」

 この様な内容だと記憶しています。


 丁寧に答えてくださったし、キチンとした方なのだろうなと思いました。


 確か、「わたしこそ、出過ぎたことを申し上げてすみませんでした」というようなお返事をしたと思います。


 この歳下の友人である彼女とはこの出来事の後も暫く、手紙のやり取りなどもしていました。

 ただサークルが自然消滅してしまってから、わたしの方で色々あって、ここ数年は連絡を取り合ってはいません。

 でも芯のしっかりした彼女のことだから、きっと幸せにしていると信じています。変わらぬ友達ですから。


 このプロの編集の方の言葉、ショックではありましたが、妙に納得したのを覚えています。

「器用に書かれているが、光るものはない」

 いやむしろ、器用と言ってくださったのは気を遣ったんでしょうね。


「器用貧乏」という言葉を見る度に、この昔の編集さんの言葉を思い出します。

 ほろ苦い思いと共に。


 けれど、最近、こうも思うのです。

 わたしの書くものは、光るものもないし、時代に求められるタイプではないけれど。


 ありふれた人間のありがちな気持ち、文芸にはなり得ないけれども、誰もが持つ、喜びや驚きや哀しみ、寂しさ、そんなものを書いて、それを読んでくださる人がいるということ。


 才能も光るものも持ち得なかったわたしでも、こんな風に書くことの喜びを感じることが出来ました。


 大成は出来ませんでしたが、これもまた、十二分に幸せなことです。

 そんなことを考えた夕暮れでした。

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