山の家の想い出話

 以前のエッセイ

「ごった煮ノート」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889350871

でも書いてますが、わたしの実家はかなり辺鄙へんぴな所にありまして。


 山の上って程ではないのですが、山の中腹?を切り開いた土地に建っています。

 まぁ、不便は不便なのですが(一応、車で上がれる道はあるんですけどね)山に囲まれて景色は良いし、空気は美味しいし、鳥のさえずりも耳を楽しませてくれる、わたしにとっては大切な場所であります。


 野生動物との遭遇?あり、虫天国?だったりと、色々ありますが、今回はそういえば、こんなことあったなぁという、想い出話をひとつ。


 それは、わたしが大学卒業後に働き出して暫くしてのことでした。

 その日は確か、年末近くで忘年会がありまして。

 まぁ、それなりの時間になり暗くなって、いつもなら駅まで父が車で迎えにきてくれるのですが(一応、箱入り娘)用事で出かけていたか何かでタクシーで帰るようにと言われました。


 何しろ実家は夜になると街灯もポツンポツンとあるだけで(今は少し改善されてます)若い女の子(その頃のわたし)が一人で帰るにはちょっともの寂しい。


 車が上がれる道はありますが、舗装されてない(今はされてます)

 タクシーを駅で無事につかまえたわたし、

「ちょっと道が悪くて辺鄙へんぴなとこなんですけどいいですか?」

 と、にこやかにお願いしてみる。


 気のいい運転手さんで、

「大丈夫ですよー!」

 とのお答え。


 わたしが道を言って、走っていただいていたのですが、どんどん人家が少なくなり、上り坂の舗装されてない山道になってきます。


 街灯もまばらというか、最後はタクシーのヘッドライトが頼り。


 運転手さんの声が不安そうになります。

「お客さん、この先に家あるんですよね?」


「もちろんです!道が悪くて本当に申し訳ないんですが、先でUターンもできますので、お願いします」

 と、わたし、できるだけ不安を払拭する様に明るく答える。


「…………。」

 何故か無口になってくる運転手さん。


「お客さん……足ありますよね?」


「へっ?勿論ですよー(笑)」


「タヌキとか化けてないですよね?」


「やだなぁーちゃんと人間ですよー!」


 冗談めかして尋ねてくる運転手さんの声、心なしか震えてない?


 やっと実家の家が見えてきた時に

「こんな所に家があったんですねぇ」

 と言った運転手さん、明らかにホッとしておられました。


 本当に申し訳なかったのを覚えています。


 そりゃ、わたしは我が家なんで、怖くないけど、何も知らない運転手さんからしたら、不安だっただろうなぁ。


 昼間ならねぇ、まだ、そんなに怖くなかったと思うんですけど。

 夜だったしねぇ。

 まだ雨とか降ってなくて良かった。


 これを家に帰って両親や祖母に話したら、全員一致で「そりゃ無理もない」と運転手さんを気の毒がってました。


 今では懐かしい想い出です。

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