四作目 咲の話

やっと出会えた、愛し合えるもの同士なのに。

俺と先輩はきっと繋がれる筈なのに。

貴方は俺のことなんて見ていない。

貴方は叶うはずのない恋をしているあの人を見ている。

どうして?

俺は貴方と年が違うから?

年下の俺は貴方からしたら幼いから?

年の差なんて嫌いだ。

俺がもっと早く産まれていたら、俺も貴方も幸せになれたのに。


俺は学校に入学してとある委員会に入った。

矢口真という男はそこでは委員長の補佐役だった。

来年からは彼が委員長になるからだとか言って俺への委員会内容の指導や、新入りの世話は真先輩がする事になった。


「あ、えと、よろしくお願い致します。」


「おう。よろしくな」


ニカリと笑う先輩はの笑顔はまるで太陽の様で眩しくて俺はいつもは目をあわせられず逸らしてしまうけれど、何故か先輩からは逸らすことが出きずに魅了されてしまった。


固まっている俺に気づいたのか、ん。とぼんやりと先輩に見惚れる俺の顔を覗き込んだ。

俺は肩をピクリと揺らし、見惚れていたのを隠す様に


「あの、俺は何をすれば良いですか。」


と、聞いた。

先輩は手を顎に当てて、少し考え込む。

その手に通る筋と盛り上がった血管はとても男らしい。

綺麗な手だと思いながら見つめていた。


「おーい。咲だったか?さっきからぼんやりしてどうした。緊張でもしてんのか?」


「あ、すみません。」


「この書類を片付けに行く、書類の置き場所と使い方を教えるから、お前も付いてこい、咲。」


「は、はい!」


パタパタと急ぎ足で俺は先輩の後を追った。

背が高くて脚の長い先輩に追いつく様に精一杯の早歩きで、走ってはいけない廊下を小走りするように歩いた。


「あ、」


廊下を歩いていると、まえを歩く先輩が足を止めた。

先輩の大きな影が地面に揺れている。

先輩の見つめるその先には一人の男。

女性の様な柔らかそうな髪を風に揺らしている。


「咲、急ぐぞ」


「は、はい!」


どうしてだろう。

先輩、あの人と喧嘩でもしているのか?

前を歩く先輩がまた歩くスピードを上げる。

俺は、先輩に腕を引かれた。

その速さに合わせる様に、俺も焦って歩くスピードを上げる。

それと同時に、先輩に触れられている箇所が少し熱くなるのを感じた。


「はぁ...はぁ...先輩急にどうされたんですか。」


「静かにしろ!」


口を先輩に塞がれ、物陰にさっと隠れる。


「真せんぱ......い」


俺は女の子にも男にも興味を今まで持つのが普通だった。

だから高校に入学して直ぐに俺のことを好きになった女の子から告白されて彼女ができ、順調に俺の高校生活は進んでいたはずだった。

でも、自分でも自分が他の人と違う事には気づいていた。

でも、それを悪い事だとも思っていなかったからあまり気にも留めていなかった。


先ほどから胸の動機が収まらない。

僕の胸は高鳴ったままだ。

先輩の横顔から目が離せなかった。

何か思惑を抱えた様な先輩のその瞳が僕の目に映る。


目の前の先輩はさっきの人を見かけてから様子がおかしい。

妙に緊張しているしなによりも耳が赤いのだ。

あぁ、そうか。

この人は、恋をしているんだ。

あの男の人に。

俺は一度だけ後ろを振り返ってみる。

するとまたさっきの男の人が俺の視界に映る。

その隣には先ほどとは違って女の人がいた。

男の人はとても嬉しそうに、頬を少し赤らめながら話していた。


そうゆう事。


三ヶ月ほど過ぎた今もまだ先輩はあの人の事を思い続けている。

そして俺も先輩の魅力にどんどん魅了されていっている。

先輩がもし俺の事を思うのなら少しは先が生まれたかもしれない。

もし俺が後一年早く生まれていたら先輩に今こんな顔にはさせないのに。

俺の中で今までに感じたことない様な感情が生まれた瞬間に気づいてしまった。

今まで誰かにここまで俺から魅了されたことはなかった。

なかったけれど。

この人にはなぜか惹かれる。

これから先もっと俺の気持ちが強くなるかもしれない。

そんな時俺が先輩のもとに行って、そっと彼を抱き寄せるんだ。

その為に、僕はまだ失恋したとは思わないでいようと思った。

先輩と思いは届かないとそう僕は確信をしているから。

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