二作目 夢の話
私の価値なんてこれっぽっちだ。
私なんていてもいなくても変わらない。
多分害は与えてないけど、
私がいなきゃいけないなんて事はない。
それはまあ、私が必要か不要かの二択だったら、
勿論皆のコンパスは私を不要と示す。
人の価値は他人の評価で決まる。
自分がどれだけ自分を素敵だと思っていても、周りが気づかなければ意味がない。
他人が私を素敵な人だと思わない限り、私は素敵な人ではない。
なれないのだ、素敵な人には。
だから、皆の目に私を素敵な人として映し出す為の演出をしなければならない。
じゃないと、私が今いる意味がなくなってしまう。
「疲れた。なんでこんなゴミ共の為に我慢しているんだろう私は......違う、自分為か。」
誰かが言ったんだ。
嘘をつき続けろと、見せかけの笑顔があれば、生きていけると。
そして目立たず、誰からも羨ましく、恨めしく思われなければ、何も問題はないと。
強く生きれば嫌われるし、目立てば恨まれる。
確かにその通りだ。
羨ましいから恨むのは人間の良くないところだと思う。
でもそれがあるのは人間の特性であり、仕方がない事だから、私が気をつけるしかない。
目立ちたくない、見られたく無い、私に触れないでほしい。
でも、必要とされたい。
私を見てほしい。
一日の汚れを溜め込んで、家で洗い流し、翌日また汚れては、洗い流すの繰り返し。
私、西川夢はあの時からそうやって生きてきたのだ。
いつからか、自分を美しく見せなければならないという、使命感のようなものが私の中であった。
目立とうとする子が輝いて見えた。
それと同時に、哀れに見えた。
目立てば目立つほど、裏で言われることも多くなるのに、この子は馬鹿だなと。
でもしかし、それによってその子の得る評価は、裏の動きなんて上回る物で、結局は目立ったほうが、得なのかもしれないとも思った。
しかし嫌われたくない。
目立つほど嫌われるし、私の弱みを突かれるタイミングが増えるのだ。
いくらそっちの方が得だったとしても、それを引き換えにしてまでの評価はいらない。
結局私はいつまでも誰にも見られない。
春に咲くヒメジオンも白い美しい花を咲かせるけれど、ヒメジオンは雑草、街を歩く人はほぼ皆目を向けたりなんかしない。
花壇のコスモスにはちらりと目を向けるのに。
同じ白なのに。
同じ植物なのに。
おなじにんげんなのに。
でも私はやっと気づいた。
目立つあの子も自分を補強して、演じて、作って、出来るだけ人に刺激を与えすぎない自分を、見せているという事に、なんだ、皆一緒じゃないか。
どれだけ上手く、幸せと何もないを作れるか。
それが、擬似幸福世界を生きる私達に与えられた使命。
皆皆皆皆皆
私と同じ、皆同じ、私が見ているのは作られた、見せかけだけのつまらない世界。
明日も明後日も作って、演じて、考えて
作られた幸福を食べる。
いつか抜け出さなければいけない、でも私も皆もこの擬似幸福から抜け出すほどの、勇気はない。
世界がそれを許さないのだから。
この幸せが嘘だとしても、この私が、周りの人が、嘘だとしても、絶望が存在するかもしれない世界に、行こうとは思えないから。
だから私は私のままで、ヒメジオンのままで、コスモスにもチューリップにもなれないままで。
一番愛する君では制御が効かなくなる。
だって、愛する貴方には、本当の姿を見せて欲しいと思ってしまうでしょう?
それなら一番愛する貴方と一緒に居るべきなのは、私じゃないね。
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