夕紅とレモン味

本田栞

前置き

 唇に塗った紅が、白い肌に映えている。艶のある黒髪が頬にかかる。長さはちょうど、腰に届くくらい。その背中はまっすぐに伸びていて、強い自信が内からにじみ出ているようだった。

 町行く者は皆、彼女に見とれ、すれ違いざまに振り返る。当の本人は振り返らない。視線を合わせようともしなかった。


 ふと、顔を上げる。真っ赤な夕日が視界に飛び込む。空の暖かな色とは反対に、気温は低い。風の冷たさが、身に染みる。その薄暗さとまぶしい光が、郷愁を誘う。ああ、夏が過ぎ去っていく。

 現在は秋。じき、凍てつく冬がやってくる。その前触れを示すように、赤い葉がひらりと落ちた。


 彼女はこぢんまりとした喫茶店にやってくる。窓は大きく、夕日が見える。

 奥の席に滑り込むようにして座ると、店員が速やかに寄ってくる。彼女は即座にレモンティーを頼んだ。

 ほどなくして、注文した飲み物が届く。

 ティーカップに口をつけつつ、外の景色を眺める。夕焼けに染まった町は鮮やかで、心に染みる。夕方特有の寂しい雰囲気に後押しされるように、彼女の胸にも酸っぱい感情が去来する。それはティーカップからただよう、レモンの香りに似ていた。

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