【本編1400文字以下です】「癪(しゃく)なんですもの」~敬老の日、あるお婆ちゃんが孫からプレゼントをもらいました

亜逢 愛

「癪なんですもの」1話完結です

 敬老の日は好きじゃないのよ。

 だって、しゃくなんですもの。


 休日だからって、3人の子供が孫たちを連れて、プレゼントまで持って家にやって来るのよ。

 敬老長寿のお祝いと称してね。


 そりゃ、70を幾つも超えているのだから、お婆ちゃんってことは自覚しているわ。


 でも、長寿を祝うなら誕生日でしょ! その誕生日には何年か前に、1人が電話してきたっきりなんだから。きっと、忘れているのね!

 癪ったら、ないわ!


 それに、子供たちからのプレゼントは使えない物が多いのよ。

 夫は亡くなっているから、その分お金をかけてくれるのは嬉しいけれど、高価な舶来の杖をもらったって、杖自体まだまだ必要ないし、好みじゃない洋服なんて着る気にならないし、何でも作れるフライパンも、大きくて重たいから洗うのが大変で使いたくないし、本当に困ったものなのよ。


 デパートやスーパーに「敬老の日」って書いてあるから、きっと宣伝に乗せられたのね。全く癪だわ!


 でも、孫たちのプレゼントは嬉しいの。お小遣いを出し合ってお饅頭を買って来てくれるのよ。

 好物って言ったものだから、毎年同じお饅頭なんだけど、1年に1回だし飽きるなんてないわね。


 うーん……、そう、だったんだけど、……。


 今年は、その孫たちが、敬老の日の前に違う物を送ってきたのよ。そう、例のジャングルみたいな名前の通販で。


 ダンボールを開けて、中の箱にある絵を見たら、がっかりしちゃったの。


 だって、機械、ウォークマンなのよ。

 (ウォークマンはソニー株式会社さんの登録商標です)

 コードや四角い本体は無くて、小さなヘッドホンだけなの。絵を見るとカチューシャみたいなのを頭の後ろに回して、耳につけるようね。


 レコードやカセットテープは聴けるけど、こんな最新式のウォークマンなんて、とても使えないわよ。


 お小遣いを出し合ってるみたいだから、かわいそうだけど、来た時に一番上のあきらちゃんに返すしかないわね。高校生だから使えるでしょう。



――敬老の日。

「昭ちゃん、ばあばは、ウォークマンなんて使えないから、返すわね」

「ウォークマン? 違うって! これは、カッコいい補聴器だよ。去年、俺の声が聞きづらいって言ってたじゃん!」


「ほちょうきだよ。ばあば」

「補聴器、補聴器!」

 小さい孫たちも、ピョンピョンと飛び跳ねながら合唱です。


 なんてことでしょう!

 孫たちは去年のことを覚えていたのです。

「ありがとうねぇ。でも、ばあばに使えるかしら?」


「大丈夫、俺が教えるよ」

 頼もしい孫です。

「昭ちゃん、分かり易くね ♪」

 若者が使うウォークマンみたいな補聴器だから、なんかワクワクしちゃうわね。


 けど、補聴器の箱を見る昭ちゃんは、首をかしげながら聞いてきます。

「ねぇ、ばあばは、箱の字を読まなかったの?」


 私は絵しか見ていませんでした。

「老眼が進んじゃって、字が白くかすんで、よく読めないのよ」


「母さん! それは老眼じゃなくて、白内障じゃないの? 都合のいい日に、僕が眼科に連れて行ってやるよ!」

 えっらそうに! 横から息子です。


「お医者さんくらい、1人で行けるわよ!」

「大丈夫なの? 今月の始めが誕生日だったんだから、75になっただろ? 母さんは、もう後期高齢者なんだから……(くどくど)」

 何よ、覚えてるじゃない!


 これだから、誕生日が近い敬老の日って、好きじゃないのよ。

 だって……。



 でも、補聴器に、ほんわかする私でした(ハート)。


 おしまい


 

 


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