諸事情により、男装姫は逃亡中!

紅城蒼/ビーズログ文庫

序章 姫君の出立


 

わたる青空の下、ゆっくりと進む荷馬車にられながら、遠ざかる城のせんとうをエルはながめていた。

 その胸の内には、強い決意をめて。

「ほら、オリベールの王都が見えてきたぞ。じようちゃ──……じゃなかった、ぼつちゃん」

 馬をあやつる男性が言いかけた言葉に、いつしゆんギクリとしたが、それをさとられないようエルはほほむ。

「良かったです、無事に辿たどり着けて。ここまで乗せてくださって感謝します。のりあい馬車が故障で止まった時はどうしようかと思いましたが、本当に助かりました」

「たまたま通りかかっただけだから構わんよ。どうせおれもリトリアからオリベールに帰るところだったし、人を一人乗せるくらい大したこたぁねぇ。……それにしても、長いことぎようしようにんをやってるが、あんたほどれいな男は見たことがないなぁ」

 じっと見つめられ、エルはごこ悪く身体からだを動かす。

「男だって言われなかったら、いいところのお嬢様にしか見えねぇから気を付けな。顔立ちもだけど、そのきんぱつと目の色は目立つからなぁ。そういうのが一人で歩いてると、スリにねらわれやすい」

 男性の視線が、エルのかたさきで揺れるかがやく金髪と、ライトブルーのひとみに注がれる。

「はい。ご忠告ありがとうございます」

 お礼を言いながら、不安になり始めていた自分をふるい立たせる。

だいじよう、なんとかバレずに済んでいるわ。──本当は女だってこと)

 この先もかくし通さねばならない。これは、そのための格好なのだから。

 こぶしにぎり、自分の全身に目を走らせる。

 質素ながらも品のいいシャツにベスト、それからズボン。肩先までしか届かない短い金髪。一見して、〝身なりのいいひんじやくな身体つきの少年〟くらいには見えるはずだ。

 もう見えなくなった母国、リトリアの王城の方をり向き、深呼吸する。

(お母様、私、しっかりとやってみせます。愛するリトリア王国とお兄様たちのため……、エルセリーヌは、この身をしてお兄様たちからげ切ってみせます……!!)

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