第16話 さらにボロ儲け! ジャージ生地!

 ターミナル駅前のショッピングセンターに来ている。

 ここは大型の手芸店『羊の親子』があるのだ。

 手芸店ならジャージ生地も売っているんじゃないかと。


 ドアはいつものようにピザ屋に配達を頼んで開けて貰った。

 お昼ご飯は、ピザでした。


 手芸店『羊の親子』の店員にジャージ生地が欲しい事を告げる。

 生地売り場に案内されたが、種類が多い!


 これは店員さんに案内してもらって良かった。

 俺が探したら一日かかってしまう。


 店員さんは沢山の生地の中から、迷いなく一枚の生地を選び出した。


「ジャージ生地なら、この辺がオススメですね。生地幅は160cmで、ポリエステル100%。価格は、1m1000円です」


 店員さんが選んでくれたのは、少し光沢のある黒いジャージ生地だ。

 触ってみると肌触りも良いし、厚みもある。


「うん、これが良さそうですね。色違いはありますか?」


「ありますよ。こちらが色違いですね。在庫は12色あります」


「ほー、ジャージ生地ってこんなに色バリエーションがあるんだ」


 何色を持って行こうか?

 黒、白と……、青、赤、緑、あたりかな?


「それじゃ、黒、白、青、赤、緑のジャージ生地を下さい」


「かしこまりました。長さは、どれ位?」


「長さ!?」


 それは考えていなかったな。

 長さ……、服を作るのに何mの布が必要なのだろうか?


「何を作るのでしょう? バッグですか?」


「いえ、えーと……。コスプレ衣装で異世界の貴族みたいなのを……」


「ジャケットですかね。だったら、3mもあれば大丈夫ですよ」


「おお! ありがとうございます!」


 じゃあ、各色10mくらい買っていくか。

 異世界商人たちが買うのだから、ある程度の量があった方が良いだろう。


 五色で合計50m。

 ジャージ生地は、1m1000円だから――5万円か。


 結構な値段だが、これがまた金貨に化けてくれるのだ。


 金貨一枚を買い取りショップで売れば、15万円になる。

 うん、ここで5万円使っても、すぐに回収できるな。


「各色10m下さい」


「かしこまりました」


 商品を受け取って自分の失敗を悟った。

 重いよ……。

 ガラガラを買って帰ろう。



 ――翌日、日曜日。


 さっと朝食を済まして、バルデュックの街にある商人ギルドに来た。

 電動バイクのカゴと背中に背負った大きなリュックサックに、ジャージ生地やパワーストーンを満載したが、電動バイクは問題なく走ってくれた。


「ミネヤマ様! お待ちしておりました!」


 商人ギルド長のサンマルチノさんと宝石商のイシルダさん。

 それに、初めて見る商人が三人。

 全員が揉み手で俺を迎える。


「こちらの三人は繊維商人でございます」


「「「よろしくお願いいたします」」」


 三人の繊維商人は表情が硬い。

 あ、そうか、俺は外国の貴族って設定だった。

 なかなか慣れないな。


「マヨ・ミネヤマです。私は外国の貴族ですが、堅苦しいのは苦手です。気軽に接して下さい」


「「「ははっー!」」」


「じゃあ、早速ですが、これが私の国で生産されている布です。サラ、布を」


「はい。ご主人様」


 サラが応接テーブルの上に五種類のジャージ生地を並べる。

 黒、白、青、赤、緑。

 この色チョイスで良かったかな?

 

 俺の心配をよそに、三人の繊維商人が感嘆の声を上げる。


「おお! これです! この生地です!」

「ミネヤマ様のお召し物と同じ生地!」

「光沢があるのが素晴らしいですな!」


 ああ、そう言えばジャージの生地って微妙に光沢があるよね。

 この世界の服は天然素材の綿や麻やウールで作られているので、化学繊維のような光沢がない。

 そう言う所が珍しいのだろうな。


 光沢のある生地なら他の生地も売れるかな?

 覚えておこう。


「これはジャージと言う生地です。通気性に優れていて、私の国では人気のある生地ですよ」


 一人の繊維商人が『ジャージ』と発音しようとしているが、聞き慣れない言葉のせいで上手に発音できないでいる。


「じゃ……じゃっじー? で、ございますか?」


「ジャージです。ジャージ」


「ジャージでございますね」


 まだ、イントネーションがおかしい。

 まあ、良いや。

 日本でも『ジャージ』を『ジャッシー』とか呼び方の違う地域があるって言うしな。

 細かい事はスルーだ。


「そうです。黒、白、青、赤、緑の五色を用意しましたが、他にも色はあります。さあ、触って生地を確かめて下さい」


 三人の繊維商人がわっとジャージ生地に群がった。

 三人とも興奮しているが、流石は商人、徐々に厳しい目つきに変わり、生地の目利きをしている。


 やがて年輩の繊維商人が三人を代表して買い取り価格を提示した。


「ミネヤマ様! ありがとうございます! こちらのジャージ生地は、1億ゴルドでいかがでしょうか?」


 1億ゴルド!?


 えーと、金貨だと1000枚だな。

 金貨1枚は15万になるから……1億5000万円!?


 えっ!?

 億越え!?

 ジャージだよ!?


 それ、仕入れ値は、5万円なんだけど……。

 良いのかな……。


 ま、まあ、でも、あれだよね。

 昔、大航海時代には、アジアの香辛料が、ヨーロッパでは同じ重さの黄金と取引されたって言うからな。


 そう考えるとだな。

 ここは異世界で、アジア―ヨーロッパ間よりも遠い。


 5万円のジャージ生地が、1億5000万円に化けても不思議は……ないのか?


 手が震えた。

 1億5000万円って、生涯収入だよな……。一生かかって稼ぎ出す額を、わずか二日で稼いでしまった。

 動揺を悟られないように、目をつぶりゆっくりと答えた。


「……よ、よきにはからえ」


「は、はあー! それではこちらは代金の大金貨100枚でございます!」


 繊維商人三人で出し合って、大金貨の入った布袋が10袋テーブルに積まれた。


「う、うむ。サラ、受け取りなさい」


「は、はい。ご主人様」


 サラが青い顔をしている。

 そりゃ大金貨1000枚、1億ゴルドは大金だからな。


 しかし、この日本・異世界間取引はバカみたいに儲かる。

 ちょっとわからなくなってきたぞ……。


 そっとスマホを取り出して、電卓機能をオン!



 日本でジャージ生地を5万円で仕入れる。

 ↓

 異世界の街バルデュックで、1億ゴルドで売る。

 ↓

 1ゴルドは、ざっくりと約1円。

 ↓

 つまり1億ゴルドは、1億円相当。



 うむ。

 この時点で、5万円が1億円(ゴルドを円に換算)に化ける。

 つまり投資からのリターンが2000倍だ。


 それから……。


 1億ゴルドは、大金貨1000枚で受け取れる。

 ↓

 異世界の金貨を、日本の買い取りショップに持ち込む。

 ↓

 大金貨1枚は、15万円で売れる。

 ↓

 大金貨1000枚は、1億5000万円になる。



 最終的に金貨を日本で売却すればだけれど、5万円が1億5000万円に化けるわけだ。

 投資からのリターンが3000倍!


 ちょっ!

 やばい!


 日本・異世界間の取引は、絶対に内緒だな。


「ミネヤマ様! 大変良いお取引をありがとうございます! これで今年の社交界は、我らの勝ちにございます!」


「それは良かったですね」


 社交界……。

 そうか、新品の服は貴族が仕立てて着る訳だ。

 客が貴族なら、ジャージ生地を1億ゴルドで仕入れるのも、おかしくないよな。


 年輩の繊維商人は継続取引を申し出た。


「追加でこのジャージ生地をお願いしたいのですが、手に入りますでしょうか?」


「大丈夫ですよ。六日後、この時間に持って来ますよ。同じ生地ですか?」


「はい! 今日と同じ生地を三倍お願いいたします。3億ゴルドで買い取らせて頂きます!」


「……」


 3億ゴルド!

 金貨3000枚!

 4億5000万円!?


 どうしよう……。

 会社辞めるか!?


 むふふ!

 うはは!


 俺は目をつぶって静かに答えた。


「あいわかった。よきにはからえ……」

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