第5話 ボロ儲けです! パワーストーン!

 ――一週間が過ぎた。

 五月も終わりに近づいている。

 夜間ドアを薄く開けているのだが、今後もこれを続けるのか?

 

 もちろん、夜間ドアを薄く開けているのは、翌朝出勤する為だ。

 ドアを完全に閉めてしまえば、ドアの向こうは異世界の森の中になってしまう。


 もうしばらくすると梅雨になる。

 ドアを開けていると湿気が凄いし、エアコンの効きも悪くなりそうだ。

 ドアをどうするか、どうやって毎朝出勤するのかは大きな課題だ。


 四十歳独身貴族は、転職など難しい。

 現在の地位――契約社員――を死守しなくてはならないのだ。


 ドンドンドン!

 ドンドンドン!


 土曜の朝六時、先週と同じようにドアが叩かれる。


「ミネヤマ様! イシルダでございます!」


 来た!

 宝石商のイシルダだ!


「はーい!」


 仕入れたパワーストーンが入った箱を持ってドアを開ける。

 あれ?

 前回よりも人数が多い。


「人数が多いですが……」


「はい。確認作業を行うのに魔法使いを三名、魔道具士を四名連れて参りました」


「それは……ご苦労様です」


 用意しておいたパワーストーンを渡すとイシルダたちは、玄関前の広場に座り込み早速確認作業を始めた。

 一つ一つの石に魔力を流し込み、さらに属性付与が可能かどうかテストしている。

 そしてイシルダが透明度や傷の有無をチェックしているのだ。


 パワーストーンは百個あるから、時間がかかるだろうな。


 今回は仕入れ先を変えた。

 パワーストーンが趣味の母に頼んで、パワーストーン専門店を紹介して貰ったのだ。

 その店で石の透明度や傷を俺がチェックした上で仕入れて来た。


 パワーストーンは天然石なので、同じ種類の石でも透明度にバラツキがある。

 なるたけ透明度の高い石、つまり魔力の通りやすい石を選んで来た訳だ。


 仕入れ値は少し高くなったが、その分粒の大きさや透明度は前回よりも良くなっていると思う。

 つまり石のグレードがアップしているのだ。


 それは宝石商のイシルダもわかっているみたいで『これは!』だとか、『なんと!』だとか感嘆の声を上げている。


 時間を持て余した俺は家の周りをブラブラした。


 やはりおかしい……。

 俺の家の周りから森の木がなくなっているいる。


 最初は玄関前に車一台分の駐車場スペースがあっただけだ。

 先週は車二台分のスペースになっていた。

 そして今日は車三台分のスペースになっている。


 それから玄関前だけでなく、家の周りにもスペースが出来ている。

 俺の家を中心にして、円形に森が消えているのだ。


 不思議だな。

 冒険者たちが作業したのか?

 まあ、伐採する手間が省けたと思っておこう。


 結局、石のチェックは夕方まで丸一日かかった。

 宝石商のイシルダはホクホクした顔をしている。


「いやあ、ミネヤマ様! 高品質の宝石をお譲りいただきありがとうございます!」


「満足していただけたようで良かったです」


「ええ。前回お見せいただいたサンプルよりも、グレードの高い石をご用意いただき感謝に耐えません。高品質の魔道具が沢山作られるでしょう! それでお買い取り価格でございますが……」


「400万ゴルドですよね?」


「はい。ですが、今日の宝石はグレードが高いので500万ゴルドとさせて頂きたいのですが、いかがでしょうか?」


 おっ!

 査定がアップした!

 パワーストーンのお店まで行って時間と手間をかけたけど、その甲斐があったな。


「それで結構ですよ」


「ありがとうございます! それではこちらが500万ゴルドでございます。どうぞ、お納め下さい」


 イシルダは小さな革袋を五つ差し出して来た。

 一つ100万ゴルドって事かな?


 革袋一つが丁度手に乗る位だ。

 俺は抱えるようにして五つの革袋を受け取る。

 ズシリと重い。


「それから奴隷商人のブッチギーネから伝言を言付かっております。ぜひ一度ご来店いただきたいとの事です」


「お店に行くのか……」


 なんか物凄い連携プレーだな。

 宝石商のイシルダが俺から宝石を買い付けて、俺にキャッシュが入った途端に奴隷商人のブッチギーネが営業をかける。


「ご都合がよろしければ、七日後に迎えを寄越すと言っておりました。ご予定はいかがでしょうか?」


 ああ、そうか!

 奴隷商人の店はバルデュックの街にある。

 街に行くには、魔物がいる魔の森を一日歩かなきゃならない。


 護衛がいなければ危険だ。

 奴隷商人が護衛を出してくれるのなら、行っても良いな。

 異世界の街も見て見たいし。


「わかりました。奴隷を買うかどうかはわかりませんが、お店には行ってみたいです。七日後の朝に迎えを寄越すようにブッチギーネさんに伝えて下さい」


「かしこまりました。私どもは今夜こちらに野営をさせていただき、明朝出発いたします」


 宝石商たちは野営の支度を始めた。

 俺は水を提供するとさっさと部屋にこもった。

 ドキドキしながら宝石商から受け取った革袋を開く。


「金貨だ!」


 革袋の中には500円玉より二回りは大きく、厚みのある金貨が十枚入っていた。

 五つの革袋で合計金貨五十枚。

 金貨一枚が10万ゴルドって事か。


「ほえ~。金貨ってズシリと重い物だね~」


 俺は手の中でポンポンと金貨を放ってみる。

 そして閃いた!


「これ買い取りショップで売れるんじゃね?」



 ――翌日、日曜日。

 朝一で宝石商イシルダたちを見送り、昼にピザ屋の配達を頼んだ。

 ピザ屋にドアを開けて貰えば、そこは日本だ。


 ピザを食べるのは後だ!

 買い取りショップへ行こう!


 地元のターミナル駅にある買い取りショップに向かう。

 バッグには金貨を一枚だけ入れてある。


 ターミナル駅すぐそばのビルの中に、買い取りショップがあった。

 お店に入ると明るい雰囲気で、スーツを着た若い女性が対応してくれた。


「すいません。金貨の買い取りをお願いします」


「かしこまりました。こちらへお掛け下さい」


 買い取りカウンターの椅子に座り、書類に記入し、店員さんと色々やり取りをして十分。

 その結果……。


 金貨は15万円で売れた!

 宝石商のイシルダから、金貨五十枚を受け取ったよね。

 と言う事は、金貨50枚×15万だから、750万円!

 

 パワーストーンは、一個2、300円。

 高いパワーストーンでも千円くらいだ。

 仕入れは3万円ちょい。


 それが750万円かよ!

 ボロ儲けだな!


「ご来店ありがとうございました!」


 店員さんの声を背に受けて、四十歳独身貴族は万札で厚くなった財布に満足するのであった。

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