第3話 待ってましたの性奴隷!

「うーん、峰山さん。急に午前休とか困りますよ」


「大変申し訳ございません」


 俺は今、絶賛説教ブチかまされ中である。


 結局あの部屋から自力で日本に出る事は不可能だった。

 窓から外に出ようとしたが、無理だった。


 ベランダには、出られるのだが……。

 ベランダはサンルームのようになっていて、目に見えない透明の壁があるのだ。

 この透明の壁に邪魔されてベランダから外に出られない。


 結局、お昼の11時なってからピザ屋の配達を依頼して、ピザ屋にドアを開けてもらい、部屋を日本につなげてから出勤した。

 電話が通じるので、もちろん朝一で職場に午前休の連絡を入れたが……。


 俺は契約社員なんだよ。

 四十歳独身貴族は、会社では立場が微妙なのだ。


 俺に説教をしているのは、年下の正社員上司。

 ぐぬぬぬぬ……。


「まっ! そう言う訳だから、今後注意するように。良いですね!」


「はい! わかりました!」


 長い説教が終わった。


 ――そして仕事が終わった。


 家に帰ると夜の十時を回っていた。

 ドアを閉めてから、そーっとドアをもう一回開ける。


 辺りは真っ暗だ。

 うん、異世界の森の中だね。


 玄関の電灯があたりを照らすけれど誰もいない。

 彼女たちは今朝バルデュックの街へ帰って行った。


 彼女たちには五日ほど留守にすると伝えてある。

 次に会うとしても土曜日以降だろう。


 スーツを脱いでジャージに着替えると、俺はピザ屋にピザの配達を頼んだ。

 こうして夜のうちに配達を呼んでドアを開けてもらい、部屋が日本とつながった状態にするのだ。


 ドアにチェーンロックをし、ボールペンを挟んでドアを薄く開けたままにしておく。

 こうすればドアは異世界ではなく、日本のマンションの廊下へ開いたままになる。

 朝出勤する時に、支障が無くなると言う訳だ。

 しかし、今は五月だから良いけれど、冬場になったらどうしよう……。



 ――土曜日になった。


 結局、ピザの宅配は頼まずに職場から帰って来たら、チェーンロックをしてドアを完全に閉めないでおくようにした。

 異世界には行けなくなるが、毎日ピザの注文をするのはお財布に優しくない。


 それに、午前休で説教をされたばかりだ。

 異世界行きよりも、日本での仕事を優先しないと。

 四十歳独身貴族は、己に厳しく、お財布が厳しいのだ。


 ドンドンドン!

 ドンドンドン!


 土曜日の朝、ゆっくり寝ているとドアを叩く音が聞こえた。


「ミネヤマ殿! ミネヤマ殿!」


 あっ!

 オリガさんだ!


 慌てて玄関に向かいドア越しに会話する。


「すいません! 今、起きたばかりなので少し待って下さい!」


「わかった! 朝早くから、すまなかった! ゆっくりで構わない!」


 シャワーを浴び、入念に髭を剃る。

 今週は仕事終わりに美容室に行って髪も整えて来たのだ。

 

 服もちょっと良いのを新しく買った。

 黒にゴールドの縁取りが入ったブランド物のポロシャツに、白のスッキリしたパンツ、茶色のデッキシューズ。


 四十歳のオッサンではあるが、まあ何とか見た目は清潔な感じにまとまった。

 それほど太っていないのも幸いしたな。


 さあ、オリガさんたちに会う準備は万端だ。

 バッチコーイ!


「お待たせしました! うん!?」


 身支度を整えてドアを開くと沢山人がいた。


 まず、剣士のオリガさん、魔法使いのロールさん、神官のジュリアさん。

 三人とも美しい!


 前回お会いしたこの三人の他に、革鎧を着て剣で武装したマッチョな男が五人。

 それとゆったりとした服を着たヒゲの中年男が一人。

 

 誰だろうね?

 

 俺が怪訝な顔をしていると、オリガさんが説明を始めた。


「ミネヤマ殿。こちらは商人のブッチギーネ殿だ。ミネヤマ殿に話があるとの事で案内したのだ。他の人間はブッチギーネ殿の護衛だ」


「ブッチギーネでございます」


 商人が俺に何の用だろう?

 俺はオリガさんたちとお話しする為に、美容室へ行ったり、服を買ったりしたのだけれどな。


 まあ、話だけは聞くか。

 俺は一旦部屋に戻り、近所のホームセンターで買った折り畳み式のレジャーテーブルとベンチを持って外に出た。


 不思議な事に俺の部屋の玄関前は、森の木が無くなっていた。

 車が一台とめられる駐車場くらいの広場が出来ていた。


 オリガさんたちが、木を切り倒したのかな?

 少し気になったが、商人と話す方が先だ。

 広場にレジャーテーブルとベンチを広げる。


「ほうほう……これはまた不思議なテーブルとベンチですな!」


「どうぞお掛け下さい」


 俺がベンチに座るとブッチギーネも俺の対面に腰掛けた。

 他の人は立って周りを見張っている。

 


 ブッチギーネは、見た所俺と同い年くらい……、四十歳くらいだろう。

 もじゃもじゃした癖のある黒髪、黒ひげの愛想良い中年男だ。


「それで、ご用件は何でしょう?」


「はい。ミネヤマ様は外国の貴族と伺っております」


「……えっ!? ええ。そうです」


 そう言えば、そう言う設定だったな。

 忘れていた!


「貴族様でしたら奴隷がご入用でしょう?」


「えっ!? 奴隷ですか!?」


 奴隷か……まさに異世界だな。

 俺が面食らい黙っているとブッチギーネは、どんどん話し出した。


「私はバルデュックの街で奴隷商人をやっております。良質な奴隷をそろえておりまして、品揃えにはいささか自信がございます!」


 品揃え……。

 品って人ですよね?

 奴隷の品揃えって、非常に鬼畜に聞こえる。


「えっと。それでブッチギーネさんは、こんな魔の森の奥まで奴隷を売る為に、わざわざ私に会いに来たのですか?」


「左様でございます。オリガさんに話を聞いたのですが、ミネヤマ様はお一人でここにお住まいとか。貴族様がそれでは、いけません! いけませんな!」


「そうでしょうか?」


「不用心が過ぎます! こんな魔の森の中では、戦闘奴隷が必須です。それにミネヤマ様は、若くていらっしゃいます。身の回りのお世話をする奴隷も必要でしょう?」


 俺はブッチギーネに『若い』と言われて気を良くした。

 四十歳独身貴族はおだてに弱く、すぐ調子に乗るのだ。


「ま、まあ、そうかもしれないね。けれど、掃除や洗濯は自分で出来るから、身の回りの世話は必要ないですよ」


 するとブッチギーネは、グッと身を前に乗り出し小声になった。

 ニンマリと笑って俺に告げる。


「いいえ、そうではありません! 夜の方のお世話ですよ!」


 うん?

 夜の方のお世話?


 えっ!?

 あっ!?


 俺も身を前に乗り出し、小声になる。


「つまり……その……奴隷と言ってもそちらの方の?」


「性奴隷でございますね」


 来たな!

 異世界の洗礼!

 性奴隷!

 

 待ってましたの性奴隷!

 カンチャンずっぽし性奴隷!


 その話は聞きたい。

 大いに興味がある。


 しかし!

 しかしな……。


 俺はチラリとオリガさんたちの方を見た。

 正直、若い女性には聞かせたくない話題だ。

 何より俺が性奴隷に興味があるなどと思われては、イメージダウンが甚だしい。


 俺の視線でブッチギーネは、俺が女性の目を気にしている事を理解したようだ。


「お待ちください。今、護衛たちを遠ざけますので……。オイ! オマエたち! 周囲を見回って来い!」


 ブッチギーネが指示を出した事で、俺とブッチギーネの近くに人がいなくなった。

 これで安心して話せる。


「奴隷って労働や護衛目的の奴隷だけじゃないのですね?」


「はい。もちろんです! 貴族様や金持ちは、性奴隷を手元に置くケースがおおございますね」


「へえ。実は私の国には奴隷制度が無くてですね。ですので、ピンと来なくて」


「左様でございますか」


 俺は頬に手を当て考える。

 性奴隷に興味はある。

 興味はあるのだが……。


 今、俺はオリガさんたちにロックオン中なのだ。

 こうして話をしていても、遠くで警戒しているオリガさんたちを目で追ってしまう。


「ミネヤマ様は、オリガさんたちが気になりますか?」


「えっ!? まあ、その、いや……」


 ブッチギーネに内心をズバリと見透かされて俺は焦った。

 俺がアタフタしていると、ブッチギーネは葬式に参列しているような顔で話し出した。


「まことに申し上げにくいのですが、オリガさんたちは望み薄でございます。三人ともお付き合いしている男性がいるそうで、三人ともそろそろ結婚するだろうと街で噂が出ております」


「なっ……」


 な・ん・だ・と!

 俺の心の中で暗黒竜が暴れはじめた。

 吹き荒れる嵐、孤独のハリケーン。

 リア充死ね!


 くそう(涙)。

 俺がオリガさんたちに会うのをどれだけ楽しみにしていた事か。

 美容室へ行って、新しい服を買って、準備をしていたのに……。


 そこに悪魔のささやきが……。

 ブッチギーネと言う名の悪魔が……。


「ミネヤマ様。そこで性奴隷ですよ……」


 そうだ。

 そうだな。

 四十歳独身貴族に、若い女性は微笑まない。


「ミネヤマ様。性奴隷なら確実に……わかりますよね……」


 そうだ。

 そうだな。

 大事なのは確実性だ。

 四十歳独身貴族は、夢など見ないのだ。


「ミネヤマ様。性奴隷なら……胸が大きい女でも、スリムな女でも……なんでもお選びいただけますよ……」


 そうだ。

 そうだな。

 巨乳は正義だ。

 さらに言えば、童顔巨乳が俺の絶対正義の愛の方程式だ。

 四十歳独身貴族は、父になれないから、乳に走るのだ。


 俺は涙を拭いて前を向いた。


「それで、奴隷を買うにはどうしたら良い?」

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