第2話 異世界美人とピザで親睦を図ろう
ドアを開けると二時間ほど前に会った青い目赤髪の女剣士が立っていた。
彼女の後ろには、紫髪の女魔法使いと金髪豊満女神官もいた。
さっきの美人お姉さん三人組だ!
そして、ドアの外は異世界の森の中だ。
「何度も申し訳ないが、水を分けてはもらえないだろうか? それと、この家の前で野営をしても構わないだろうか?」
「野営?」
野営とは何だろう……。
ああ! キャンプの事か!
「構わないですよ。あのー、それと良かったらピザを食べませんか?」
「ぴ? ぴーざ?」
どうやらピザを知らないらしい。
「ピザと言う食べ物です。ちょっと沢山あって……。一人では食べきれないので、良かったらご一緒に」
すると女剣士の目がスッと細くなった。
何か凄く警戒されているな。
声も表情も硬い。
「食料……。それはありがたいが、おいくらかな?」
「タダですよ。無料でご馳走しますよ」
「ほう……タダか……ふむ……。それで金の代わりに何を要求するつもりだ?」
「えっ?」
お姉さんたち三人は腕を組んで怖い顔をしている。
ひょっとして食事と引き換えに、エッチな事を要求されると思ったのかな?
俺は真面目な顔で三人に説明する。
「あのー。こう見えて私は紳士ですから。変な要求をする事はありませんよ。本当に、純粋に、好意で食事をご馳走しようと思っただけですよ」
四十歳独身貴族は、常に紳士なのだ。
もちろん下心はあるので、上っ面だけだが。
俺の真面目な答えに安心したのか三人とも警戒を解いてくれた。
女剣士が代表して詫びて来た。
「いや、失礼した。女三人で活動をしていると不埒な事を考える者もいるので」
「わかりますよ。女性だけだと、色々とご苦労があるでしょう。さあ! 今ピザを持って来ますよ!」
俺は部屋の中からピザとポテナゲとコーラを運び出した。
部屋の中にご招待とも思ったけれど、俺の部屋は日本につながっている。
ややこしい事になると嫌なので、外で食べる事にした。
ちらっと時計を見ると夕方の五時だった。
ちょっと早い晩ご飯だ。
森の中で地面にピザを並べると、女剣士が自己紹介をして来た。
「私はEランク冒険者のオリガ。バルデュックの街の冒険者ギルド所属だ。こちらはパーティーメンバーのロールとジュリア」
「どうも」
「よろしく」
来たよ! 冒険者!
ザ・異世界!
赤髪の剣士がオリガさん。
紫髪魔法使いがロールさん。
金髪神官がジュリアさん。
いや、三人とも美人さんだなあ。
興奮を抑えて俺も自己紹介を返す。
「私はミネヤマと申します」
「ミ……ミーネ? ヤマー?」
「ミネヤマです」
「ミネヤマ? 変わった名前だな……」
「そうですね。私はこの国の人間ではないので。ミネヤマが家名で、マヨが名前です。えーと、この国だと家名は前ですか? 後ですか?」
「家名は後だ……。家名持ち? するとミネヤマ殿は、貴族であらせられるか?」
「ハハッ! そうですね! 独身貴族です!」
さり気なく独身アピールをしてみた。
年齢は伏せるのだ。
すると予想外の反応が返って来た。
三人とも片膝をついた姿勢に座りなおしたのだ。
えーと……これって俺に敬意を示しているの?
「知らぬ事とは言え大変失礼をいたしました。平に、ご容赦を!」
と言って三人が一斉に頭を下げた。
いやいやいや!
誤解だ!
独身貴族は、そう言うロイヤルな意味ではない。
むしろ負け……。
いや、自虐になるから止めよう。
この誤解は早く解いて……。
いや、待てよ!
貴族って事で押し通して良いんじゃないか?
その方が女性に人気が出る可能性が高いんじゃないか?
好感度アップ?
恋の予感アップ?
俺の中で邪な思いが一気に膨れ上がった。
そして自分は『外国貴族のミネヤマ様』で押し通す事にした。
「苦しゅうない。面を上げよ」
「「「ハッ!」」」
「あー、実はですね。私は外国の貴族でして、色々と訳あってこの地に住んでいるのです」
「なるほど」
「貴族ではありますが、気軽に接して下さい」
「いえ、そのような無礼は……」
「いやいや! 良いのです! 良いのです! 私は貴族社会の堅苦しいのが苦手でして。ほら服装も! これは私の国の平民の服ですから! 気軽なのが良いのですよ」
「そ、そうですか。それでは普通にお話をさせていただきます」
ふうう。ウソを付いてしまった。
だが、四十歳独身貴族は事実だ!
だから、貴族であると言うのも――あながちウソではない!
「さあ、それよりも食べましょう!」
異世界人とのピザパーティーが始まった。
「う、うまい!」
「こんな料理があるなんて!」
「このピザと言う食べ物は非常に美味しい! コーラと言うのも美味しい!」
大変好評である。
美味しいピザのお陰で三人も大分打ち解けてくれた。
俺もかなり久々に女性とお話し出来て上機嫌だ。
俺は食事をしながら、色々と質問をぶつけてみた。
今、俺がいる森の中、俺がいるのはどんな世界なのだろうか?
色々と聞いてみてわかったが、どうやらここは魔物アリ、剣と魔法アリのファンタジーな世界のようだ。
「なるほど……。すると冒険者と言うのは、魔物を倒したり、ダンジョンを探索するのが主な仕事ですか。大変そうですね」
「そうですね。しかし、実入りは悪くありません」
「仕事が大変でも、稼ぎが良い訳ですね」
会話していて気が付いたのだが、なぜか彼女たちと言葉が通じている。
口元を注意して見ていると、俺の耳に聞こえる言葉と口元がずれている。
外国映画の吹き替えみたいだ。
恐らくは念話とか、テレパシーとか。
言葉でなく思っている事が、脳に伝わっているのだろう。
彼女たちによると、この森は魔の森と呼ばれていて、魔物が徘徊する危険な森らしい。
そして数日前、他の冒険者たちが偶然新しいダンジョンの入り口をこの森の中で見つけたそうだ。
「それで新しいダンジョンの入り口を探していると?」
「ええ。最初に見つけた連中は森の中で迷ってしまって、場所をハッキリと覚えてなかったのです。そこで冒険者ギルドが冒険者に担当エリアを割り振って、沢山のパーティーがこの森を探索しています」
「なるほど。オリガさんたちの担当が私の家の近くだったと」
「その通りです」
さらに詳しく話を聞いたところ、バルデュックと言う街はここから歩いて丸一日かかる距離らしい。
そして俺の部屋、と言うか俺の家は、バルデュックの街に接する巨大な魔の森の中にある。
彼女たちは、探索途中に水を切らし、川や湧き水が見つけられなくて困っていたそうだ。
「いやあ、こんな魔の森の中に住んでいらっしゃる人がいるとは思いませんでした。水の補給が出来て助かりました」
「それは良かった。ところでダンジョンの入り口は見つかったのですか?」
すると彼女たちがニヤリと笑った。
「ええ。向こうの方角に少し歩いた所にありました」
俺の家の近くか!
大丈夫なのかな?
ちょっと心配だが……。
「いや、それはおめでとうございます!」
「ええ! これでギルドからボーナスを受け取れます!」
彼女たちは嬉しそうに笑った。
だが、俺は色々と気が気じゃない。
家の近くにダンジョンがあると言う事もそうだし……。
それより何より、今日は日曜日なのだ。
明日は仕事に行かなければならない。
けれども自宅のドアを開ければ異世界だ。
どうすれば、日本にある会社に出勤出来るのか?
どうしよう……。
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