第二章3  『思い出③』

「んせ……せんせい……先生!」


「ん……」


 ゆっくりと瞼を開け、ブロンドヘアにピンクのワンピースを身に纏った少女が目に映る。

 それが声の主であり、のちにシエラだと認識する。



「先生っ――」



 寝ぼけ眼でもわかる、シエラの深刻な表情。

 何かがあったのか問おうとすれば、シエラは急かすように言葉を繋ぐ。


「街が!」


「……っ!」


 シエラの移す視線を追い、息が詰まる。


 立ち上る、いくつもの黒煙。

 耳を澄ませば聞こえる悲鳴、逃げ惑う人々。

 赤く染まる空と街。


 丘から見渡す景色は、かつての教会のように民家へ火の手が回っている。

 とても言葉にし難い、悲惨な光景だった。


「助けて!」



 シエラのそのたった一言に足は地を蹴り、自然と賑わいの街――《プロスパー》へと走り出していた。

 

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