第二章 第五十三話 穴だらけの廊下

「それでは行きましょうか」


「行くってどこに?」


「何言ってるんですか? 宏さん」


 ブギーマンがそう言うと目の前から消える。


「えっ?」


「正気に戻す方々がまだまだいるじゃないですかっ」


 後ろを振り向くと、彼は扉の前に立っていた。


 そうだ、まだ終わっていない。


 みんなを正気に戻すんだ。


 扉が開き、そのまま俺たちは下の階に向かうのだった。


 屋根裏部屋から二階の廊下へ下りる階段で、俺はふと亮夜の顔が脳裏に浮かんだ。


 亮夜は大丈夫だろうか。


 あれだけ戦闘をして、最後まで彼の姿を見ることは無かった。


 破壊する音は聞こえないから、戦闘は終わっているのだろう。


「なに……これ?」


 レベッカの絶句する声が聞こえる。


 それもそうだ。


 廊下の壁という壁が穴だらけになっている。


「これはすごいですねぇ。リフォームするんですかぁ?」


「しないよ!? 前の屋敷の状態で十分よ! なんなのこれ!? カルロスはどこ!?」


 レベッカは屋敷の惨状を大きなリアクションで反応した後、大声で「カルローーーーーース!!」と呼びながら先に歩き始める。


 彼女の姿を見て、俺は驚いた。


 レベッカってこんなキャラなの?


 アンを見ると、彼女は笑っている。


 これがレベッカの本当の姿。


 よかった。


「カルローーーーーース!!」


 彼女の声が響き渡る。


 その声に「うるせぇなっ!」と反抗的な声が聞こえた。


 レベッカは立ち止まり、大きく穴の空いた壁を見つめ「あなた誰?」と壁の向こうにいる相手を聞いている。


 この声は……。


 俺はこの声に聞き覚えが……いや、この声を聞いて安堵した。


 急いでレベッカの隣に立ち、大きく穴の空いた壁から見えるのは……。




 ヴッー! ヴッーーー! ヴッーーーーーー!!




 帯にぐるぐる巻きにされ、帯で猿轡さるぐつわされているカルロス。


 その上に団扇を仰ぎながら、右腕で大きな頭の仮面を支え、腰掛けている人がいた。


「……亮夜」


「よっ、宏。この感じだったら……うまくいったんだな!」


 仮面の目の奥、影になっているが、微笑えんでいるのがわかる。


「あぁ、うまくいった」


「ちょっとっ? あたしを無視して会話しないでくれる? この人誰?」とレベッカが質問する。


「彼は水島 亮夜。俺の——仲間だ」


「そう」と答え「カルロスがやられるなんてねぇ」と呟く。


「そうですよぉ、これで皆さんを治すことができますねっ!!」


 ブギーマンとアンが俺の隣に並ぶ。


「お前もいんのかよ」


「どうもぉ、元気してましたぁ?」


 一瞬嘲笑あざわらい「ふざけろ」と返す。


「で、どうやって治すんだ? これを——」




 ヴッーーーーーー!!




 今にも暴れだしそうなカルロスと目が合う。


 やばっ、目合っちゃったよ。


 でもやらないといけないんだよな。


 俺の右手にはつるぎが握られている。


 これでまた……。


 亮夜はつるぎを見て「それを使うのか?」と俺に聞いてきた。


「そうだ」


「そうか……辛いかもしれねぇが。生きるためだ」


 俺はレベッカを見て、彼女と目が合う。


「はぁ、他に方法がないもの仕方ないわよ。それにこんなカルロス見たくないし」


 そう言い、目をらした。


「わかった」と俺は答え、カルロスに近づく。


 亮夜が無言で立ち上がり、彼から離れる。


 カルロスが唸る声が聞こえる。




「ごめん」




 俺はそう言い、カルロスを斬った。

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