第二章 第四十話 カラクリ仕掛けの幸運
入るとそこは何も置かれていない部屋だった。
下の広間ほど広くはないが、教室ぐらいの広さはある。
扉が閉まる音が聞こえた。
振り向くとノコが扉を背にして立っている。
まるで返り血を浴びたかのように、赤い日差しがノコを染める。
彼女は俺たちを見ながら、また話しながらこっちにゆっくりと向かってくる。
やるのか?
俺は少し身構えた。
しかし、彼女は俺たちを尻目にそのまま突っ切り、そして振り返る。
「皆さま、戦闘の用意はできているでしょうか? 私はいつでもいけます」
そう言いながら腰に刺している剣の取手を持とうとした瞬間、「待った!!」と岩城が彼女を止める。
「何でしょうか?」
彼女がそう聞くと岩城は手を差し伸べこう言った。
「お嬢さん……僕と一緒に踊りませんか?」
こんな時に岩城は一体何を言っているんだ?
まさか君は彼女に挑発しているのか?
彼女はどう反応するんだ?
そう思いノコを見ると、彼女は背後を振り向いていた。
「君だよ!! なんで後ろ向いたの?」
「後ろにあなた様と踊る方がいらっしゃると思いまして」
「君のことを言っているんだよ!?」
「私は今から皆様と戦うのです。踊る相手ではございません。いきます……」
「待って!! ステイ……ステ〜〜〜イ」と両手を突き出し、彼女を止める。
「なんでしょうか?」
「はぁぁぁ……僕が君と戦う。そう言ってるんだよ」
ノコは目を見開き、無表情でまた無口に岩城を見つめる。
彼女の見開く瞳を見ていると、瞳に光がないと感じた。
目が死んでいる、そんな感じだ。
言い方は悪いが、彼女に対して『物』という言葉があう。
正直、彼女の存在は気味が悪い。
彼女が口を開きこう言う。
「畏(かしこ)まりました。あなた様を倒したのち、あとの二人を殲滅(せんめつ)させて頂(いただ)きます」
「ありがとう」と岩城は返し、俺たちに振り向く。
「水島と大神くんはカッコイイ僕の姿を見ててね」
そう言った後、最後に「絶対勝つから」と呟く声が聞える。
その時の彼の背中は
岩城はノコと少し距離を置き、前に立つ。
「宏、俺たちはもう少し後ろに立とうぜ。ここじゃ俺たちは邪魔になるかもしれねぇ」
俺は「そうだな、わかった行こう」と言い、亮夜と一緒に部屋の端っこへ向い、二人を見る。
「全く……君、真面目でしょ? 冗談が通じない人は苦手だよ。冗談を言い合って、会話で遊ぶことはできないのかい?」
岩城がそう言うと、彼が一瞬光ったように見えた。
「会話で遊ぶ? 会話では遊べません」
「遊べるよ。言葉遊びってあるんだからね」と言い彼は鞘から刀を抜き出した。
その刀は反っていない、真っ直ぐな刀だった。
「左様でございますか。理解はできませんが、あなた様を倒した後も覚えておきます」
彼女も鞘から剣を抜いた。
その剣は細身で先端が鋭く尖った形をしている。
「わお、レイピアか。こりゃまた突かれたら痛そうな武器だねぇ」
「私は痛覚がございませんので、痛いというものはわかりませんが、痛みを感じさせる暇なく倒させて頂きます」
ノコがそう言うとレイピアをまっすぐに立て構える。
「私の幸せは
目を見開き岩城を見るノコ。
「そう……遊びがないねぇ」
「私に幸運をください。
ノコがそう唱えた瞬間、彼女は岩城の目と鼻の先にいた。
そして、そのままレイピアを岩城に突き刺した。
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