第二章 第二十話 嘘つき

「あらなに? この人たち囮? 囮を使って私に負けてるの?」



 ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ



 不気味に引きつった笑い声がグランドを響かせる。


 この状況に亮夜は気に食わなかったのか、緑色の肌をした女性にこう質問した。


「なに見下げてんだよ。あんた誰なんだよ!」


「ワタシ? ええ、すぐ消えるアナタたちに名乗ってあげるわ。ワタシはエルファバ。ルファバ・マグワイア。この夢の世界ヴォロ で一番の魔女。オロチ様のもとにアナタたちを消すわ」


 エルファバ? その名前に聞き覚えがある。誰だ? 思い出せ……。


 ふと脳裏に思い浮かんだのは、メイド少女のベルの姿。


 そうだ。ベルが言っていた女性だ。


 ん? 消えていなかったのか。


「そうは……させない……」


 クレーターの方から弱々しく、息絶え絶えの女性の声が聞こえた。


 振り向くと神代が力を振りしぼって立っている。



 ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ



「また立つの? アナタ二回もここ来て、やられてなかった?」


 二回? 神代はここは初めてだろう? 今回、俺たちを囮にして様子を見るって言ったよな。


「何言ってんだ? 神代さんは今回初めて潜入するって言ったんだぞ!」


 俺がそう言うとエルファバは腹を抱えて笑いだした。



 ヒャハハハハハハ



「そんなわけないでしょ? その女は一回屋敷に侵入してるし、ワタシたちを知っているわ」


「私たちって……全員生きてるってことか?」


「そうよ。あぁ、アナタ。この三人に嘘ついたのね。だからアナタたち理解していない顔してるのね」



 ヒャハハハハハハ



 エルファバはまた笑いだす。神代さん、どういうことなんだい? なんで嘘をついたんだい?


 そう思っていたら、亮夜が神代に怒鳴る。


「神代! どういうことだ?!」


「……」


 神代は無言のまま下を向く。


 亮夜はその態度にイラついたのか、彼女に近づこうとする。岩城は見ているだけ。


 くそっ。


 俺が亮夜の目の前に立ち、彼を止める。


「亮夜、落ち着け。今は彼女じゃなく、この状況をどうにかしないと」


 亮夜は舌打ちをし「あとで覚えとけよ」と言い、上空にいるエルファバを見上げる。


 エルファバはわざと欠伸あくびをしながら、こう言った。


「ふぁー、仲間割れは終わったかしら? 男ってバカよね。ワタシが代わりにアナタたちに言ってあげる。その子はね、アナタたちを信じていないの。自分ひとりで解決しようとしたの」


 俺は神代見て「嘘だろ? そうなのか、神代さん?」と質問した。


 しかし、彼女はうつむいたままだ。


「ヒャハハハ、ほんと笑えるわ。それで返り討ちにあっているのだから」


 俺たちは騙され、ここで囮と言って消す気だったのか? 誰を信じればと下を見下げようとした瞬間、亮夜がエルファバに向かって「うるせぇぇぇ!」と叫ぶ。


「あんたの戯言なんざ興味ねぇんだよ! 理由は直接本人から聞く。なんの関係もねぇ外野がピーチクパーチクうるせぇんだ、黙ってろ!!」


「そうだよ。これは僕たちの問題だ。君には関係ない」


「ふーん、アナタたちそんなこと言うんだ。うん! 消してあげる♡」


「悪いな。あんたには負けてらんねぇんだよ」


「ワタシ? ワタシたちの間違えでしょ? ……ベイカー」


「ウキッ!」


 猿のベイカーがエルファバに頷き、ほうきの棒を両足で握り、器用に立ち上がった。そして両手を挙げ、背中の羽を広げ、叫びだした。



 ウキィィィィィィ!!



 ベイカーの叫び声と共に、俺たちを囲っている羽の生えた猿のような影が叫び始める。


 ウキキィー

 ウキィ

  ウキィー

  ウキィッ

  ウキィーウキィー

 キィー

  ウキキ


 そして、信じられない光景を目の当たりにする。それは影たちが一匹が二匹に、二匹が四匹に、四匹が八匹と分裂し始めたのだ。


 倍々に増えていく影の数は、ゆうにさっき倒した数の倍は増えていた。


 周りはさっきと同じ光景、いや、さっきよりも多い。


 俺たちはただ立ち尽くすことしかできなかった。

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