第二章 第十八話 羽の生えた影
トゥクトゥクが戦場に向かっていると考えると、まるで出荷される豚のような気分だ。
はぁ、いやだなぁ。亮夜に行かせるように言ったが、俺もやめとけばよかったかなぁ。
なんで一緒に行こうって言ったんだろ。
キィーキィーキィーキィーキィーキィー
亮夜は運転しながら「……来たな」と言う。
俺は横から顔を出し、空を見上げる。そこには羽の生えた猿のような影がトゥクトゥクと同じ速度で飛んでいた。
「僕が相手するよ」
岩城はそう言い、器用にトゥクトゥクの屋根によじ登る。
屋根の上に立ち、彼はギターをもつ構えをとる。
「今回はこれか」
一瞬、岩城が輝き、俺は目を逸らす。
眩しい……ん?
また見ると、彼はなぜか
「今回はこれか」
キィーキィーキ……。
岩城がバチで弦を弾いた途端、上空に飛んでいた黒い影が真っ二つに斬れ、そのまま消えていった。
何が起こったんだ?
「岩城くん、何したんだ?」
「何って、
「なんだ……ありゃ?」
二人とも前方を見ている。何を見ているんだ? そう思い前を見る。
俺は目を凝らした。
動物のドキュメンタリーなどで、コウモリの大群が一斉に飛んでいるところを見たことあるだろうか。俺自身は生で見たことはない。もしその状況に出くわしたら、俺が今見ている状況と似ているのだろう。
数百匹の羽の生えた黒い影が、大勢でこちらに向かって来ているのだから。
その状況を見て岩城が叫ぶ。
「水島!
「はぁ!? あんたバカかトゥクトゥク入らねぇぞ!」
「いいから!」
「あぁあ! ちくしょー!!」
そう会話をした途端、トゥクトゥクのスピードが速くなっているのが分かる。俺はトゥクトゥクの柱を両手で握っているのがやっとだ。
岩城は大丈夫か? そう思い屋根を見る。
彼はアクションスターばりにうつ伏せで屋根にぴったり張り付いている。
「岩城くん! 大丈夫かい?」
「大丈夫に見えるかぁぁぁい?」
彼は必死に叫ぶ。必死な彼に少し申し訳ないと思った。
空を飛ぶ黒い影がこちらに近づいてきて、トゥクトゥクに向かって高度を下げて来た。
トゥクトゥクの屋根から絶叫が聞こえる。
「すごく来てるよぉぉぉ! 本当にやばいんだけどぉぉぉ!」
「もっとスピード上げるぞ!」
「えっ!?」
「わかった」
トゥクトゥクのスピードが速くなる。
ウギィィィ!
影が急降下してくる。
待ってくれ、このままでは追突するのではないのか?
トゥクトゥクは加速する。影は近くなる。
岩城が叫ぶ。
「あ゛だるぅぅぅぅぅぅ……ん?」
向かってくる影の下をギリギリすり抜ける。
トゥクトゥクの方が速かったようだ。
ウキィーウキィーウキィー……。
俺は後ろを振り向く。過ぎ去ったところで影の何匹かは道路にぶつかっていた。しかし、大群は横八の字を書くように、ターンしこちらに向かってくる。
「水島、危ないよ!」
「亮夜! 追って来てるぞ!」
「わかってる!!」
トゥクトゥクが大きく右に曲がる。
歩道を跨り、植物が植えてる場所に入り、左に曲がる。
そこは公園だ。
公園に入った途端、トゥクトゥクがまた右に曲がった。
しかし、公園は砂だった。トゥクトゥクが右、左と蛇行し始めた。
亮夜が慌てて叫ぶ。
「全員トゥクトゥクから離れろ!!」
俺たちは
トゥクトゥクが倒れる音が聞こえる。
うつ伏せになっているから、正直どうなっているのかわからない。
……ウ……ウキ……ウキィーウキィーウキィー!
猿? ……ッ!?
俺は上体を
背後は亮夜と岩城。彼らと背を合わせるように回りを見渡す。
何百匹といる羽の生えた猿のような影が、俺たちを囲っていた。
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