第二章 第十三話 バートリー家

「金髪幼女……金髪幼女だぁぁぁ!」


「ひゃう」


 岩城が大声で叫び、びっくりしたのか、金髪少女はしゃがみこんだ。彼女の前にメイドの少女が急に現れ、彼女を庇(かば)いながらこう言う。


「妹様、気をつけてください! あのふっくらした奴は危険です。私たちの敵です」


「そ、そうなの? ベル?」


 あのメイドの少女はベルという名前なのか。


「そうです! 見てくださいあの顔!」


「フヒッ?」


「あの顔に私は……私は……うぅ……」


 ベルは涙目になりながら、金髪少女に抱きつく。金髪少女は優しくベルの頭を撫でる。


「やっぱ、幼女は目の保養になるねー。ねぇ、そう思うよね! ロリって最高だよね!」


 岩城が俺を見る。


「だからわからん」


「うっせぇぞぉ、ロリコン」


「う゛っ……ロ、ロリコンじゃないですぅ。見た目が十二歳以下の女の子が好きなだけですぅ」


 岩城がその発言をし、神代は顔を歪ませこう言った。


「キモ」


「う゛っ……」



バタン



 彼はそのままソファーに倒れこむ。


 これはそうとう心に来ているなぁ。真っ白だ。


 俺は真っ白になった岩城を見て、金髪少女を見て「それでこの金髪の女の子は誰なんだい?」と質問した。


「この子たちは居候よ。まぁ、今回の件の関係者でもあるけど。ベル、アン。自己紹介しなさい」


 少女たちは互いにこちらを向き、ベルが一歩前に出て自己紹介を始めた。


「私はベル・ファンタズマ。バートリー家に仕えるメイドです。主に掃除、洗濯などの家事をしていました。よろしくお願いいたします」


 そう言い一礼する。続いてアンがベルに隠れながら自己紹介を始める。


「アン……アン・バートリー……です」


 アンは軽く会釈する。


 恥ずかしがり屋なのだろうか。


「ふーん、で、このちんちくりんどもが原因ってことか?」


「勝手に結論を出さないでくれる? 今から言うから」


 ベルとアンは部屋の端にあった椅子に座る。


 神代が彼女たちと出会ったきっかけを話した。


 事の始まりは一週間前までさかのぼる。神代が夢の世界ヴォロ で目覚めた瞬間、玄関からノック音が聞こえたので、扉を開けると彼女たちが怯えながら助けを求めたそうだ。


「正直こういうのは大体、面倒なことしかないけど……断れなかったの。で、このやかたに入れて事情を聞いたわ」


「そこからは私が言います」


 ベルが立ち上がり、自分たちが体験したことを話した。


 アン・バートリーには姉がいる。名前はレベッカ・バートリー。北能町から西、流星学園から北にある幸戸こうべ山手やまて女子高校。それが夢の世界ヴォロでは巨大な屋敷やしきになっている。彼女はそこの当主だそうだ。


 事件が起こったのは神代と会う三日前のこと、その日は当主のレベッカ、レベッカの親友のエルファバ、エルファバが飼っているコウモリの羽が生えた猿のベイカー、執事のカルロス、もう一人のメイドのノコが屋敷の庭でティータイムをしていたそうだ。この時、ベルとアンは屋敷の中にいた。


「私が仕事をしている時に……」


「嘘、一緒に遊んでた」


「妹様? なんで言うんですか?」


「正直に……答えないと……いけないと……思って?」


「なんで首を傾げるんですか。 そうです。私たちは屋敷で遊んでいて……」


 庭の方からすごい爆発音が聞こえたそうだ。ベルは状況を調べるため、能力を使い偵察をおこなった。そこで見たのは庭で倒れる当主たちであった。ベルは庭に向かおうと思った。しかし、偵察していたおもちゃがなぜか急に壊れたらしい。彼女はこれは危ないと思い、裏口から逃げたそうだ。


「その後も大変でした。ベイカーの能力で増えた影の猿たちが襲ってきたんです。ベイカーはそんな子じゃないのに」


「俺たちも二回見たぜ。あれ能力だったのか」


「その三日間どうしてたんだい?」


「野宿で飲まず食わずでした。妖魔は身内以外は優しくないのです。そういえば奇抜な格好で真っ黒い人がここに行けば助けてくれるよって教えてくれました」


 ベルは人差し指を下に向き、風見鳩の館を指す。


 それを聞いた神代が目を見開き「なにそれ初耳なんだけど」と言った。


「そういえば言ってなかったですね」


 神代は頭をガクンと落とし「あいつの仕業か」と呟くのだった。

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