第一章 第十四話 対人戦

 瞬きするとそこは参ノ宮駅周辺の交差点であった。


「準備はできてるか?」


 隣には大きな頭の仮面を被った亮夜がいた。


「すごく笑顔だな」


「そりゃ、仮面だからな」


「カミシロ、コッチコッチ」


「うわぉっ! びっくりした!!」


 亮夜が持っていたミニブギーマンが急に右腕を伸ばしながら、神代の場所を言い始めた。


「大神、行くか」


「あぁ、行こう」


 亮夜は瓢箪を投げ「オン・マニ・パドメー・フン」と呪文を唱えた。瓢箪が大きくなり、瓢箪の形をしたバイクに変わった。亮夜は何事もなかったように、バイクに跨(また)がる。


「どうした? 早く後ろに乗れよ」


「う、うん」


 やっぱりこの環境が慣れない。当たり前のように能力を使うことが、どれだけおかしいか。


「俺の肩を持っといてくれよ。後ろから抱かれるのは女性限定だからな」


 亮夜が冗談混じりに言うが、昨日混乱していなかっただろうか。亮夜はミニブギーマンをメーターと前のガラスの間に座らせる。


 俺は左手を肩に握り、右手は下の取っ手を握る。


「よし、行くぜ!」


 バイクが進み始める。ミニブギーマンが神代のいる場所をナビしているのだろう。バイクは南に下りた後、西に曲がり直進する。見上げると赤い建物へ近づいているのが分かる。


「場所はメリケンパークか!」


 メリケンパークとは幸戸港こうべこうにある公園のことである。その公園の近くには幸戸で有名な和太鼓のつづみを長くしたような赤いタワーが建っている。


「なんでそんなところに」


「知らねーよ!」


 目的地に近づいてきた。バイクは歩道に乗り上げ、鷹の像がある噴水、巨大な魚のオブジェクトを横切り、海の方へ向かう。


 バイクが公園の噴水に近づくに連れ、人影が見えてくる。ひとりの少女が噴水近くのベンチに座っている。


「はぁ、見つかった」


「よう、待たせたな。神代」


「まぁ、あの道化師が絡んでたら、逃げても意味ないことはわかってたし、抵抗する気も起きないわけだけど……」


 神代はベンチから立ち上がり、俺たちを睨む。


「ただ、水島くん。なんでその仮面被ってるの?」


「ん? 知らねぇよ。俺の能力がたまたまこれだったんだよ」


「私は知ってる。その能力を知ってる。なんで、あなたなの? その能力の所有者が、なんであなたなの!」


 彼女が叫んだ瞬間、肌がピリピリしだした。


「水島! 早くバイクから下りるんだ!」


 そう発言したが、遅かった。下の石畳が隆起りゅうきし、バイクを挟むように拘束し始める。


「な、なんだこれ!?」


 俺たちは慌てて少し持ち上げられたバイクから下りる。


「これで逃げられなくなった」


 神代はそう言い、こちらに向かってくる。彼女は石畳に手をかざすと、そこから槍が現れ、それを引き抜き走ってくる。


「大神! ここは俺がやる!」


「俺も戦う!」


「あんたは行け! う゛っ……」


「えっ?」


 予想外だった。鋭利な刃物が亮夜の腹を貫いている。彼から刃物、棒と順に目線を追うと、石畳から槍を握る神代が這うように上半身が出ていた。


 さっき走っていなかったか?


「何すんだよ」


 亮夜が話した? 貫かれているのに?


 俺は何を見ているのだろうか。大男のような手品ではない、金髪の男と同じように一般常識では測れない世界。理解しろと言われても、考えるな感じろと言われても解らないものは解らない! ……逃げよう。こんな世界、逃げよう。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」


 俺はすぐにその場から離れ、つづみのような赤いタワーに向かって走り出した。逃げるんだ。逃げるしかないんだ。物語の主人公ではない俺が、なんでこんなところにいるんだ。ただのモブなのに、エキストラなのに、少年Aなのにどうして俺なんだ? 俺が主人公ならチート能力を得て、俺が強い、無双すると言うやつがいるだろう。


 ふざけるな!!


 能力を得た? 使い方もわからないのに何が能力だ? こんなものトリガーが動かない銃じゃないか。欠陥品だ!!



はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。



 鼓のような赤いタワーの下で四つん這いになる。自分の息しか聞こえない。つい最近この音、聞いたな。いつだっけ? あぁ、四日前か。


「もういい?」


 女性の声がした。上体を起こし、声の方を見ると神代が哀れんだ顔でタワーの柱に凭れている。


「君は双子かい?」


「いいえ、私は一人。たった一人」


 そう言うと柱に手を触れ、柱から槍が現れ、それを手に取り、俺に近づいてくる。


「大丈夫、ここで死んでもあっちじゃ死なないから。ここであった事も忘れるから。ただあなたの大切なものが失うだけ。それだけ」


 今までの厳しい言葉ではなく、優しくそれを言ってくる。彼女は俺が見えるように刃物を突き立てる。


「さようなら」

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