100万円差し上げますので、1日だけ恋人になってください
星火燎原
第1話 100万円差し上げますので
『100万円差し上げますので、1日だけ恋人になってください』
1 名無し 20××/06/17 22:57
私は都内に住んでいる二十代後半の男です。
スレタイに書いた通り、恋人を演じてくれる方を探しています。
恋人を演じてくれた方にはお礼として100万円差し上げます。
この書き込みは悪ふざけではありません。本気です。
ただし、条件があります。
これから私の生い立ちを書きますので、その内容に共感、理解してくださった方に恋人を演じてほしいのです。(ほとんど愚痴のような内容なので不快に思われる方もいるかと思います。ご注意下さい)
お恥ずかしい話なのですが、私は今まで恋人がいたことがありません。
異性と会話したことすらほとんどない彼女いない歴=年齢な男です。
それどころか同性の友達も作れずに学校生活を過ごしていました。
幼稚園に通っていた頃は仲の良い友達もいて、普通の子供でした。
特に目立つような子供ではなく、どちらかと言えば内気な性格だったのですが、揶揄われていた友達を庇ったことがありました。
そのことを先生に褒められたのが凄く嬉しくて、臆病だった私にとっては自慢できる唯一の思い出でした。
小学校に上がり、幼稚園で仲良かった友達とは別のクラスになってしまいましたが、同じクラスで新しい友達を作ることができ、二年生までは周りと上手くやれていました。
事件が起きたのは三年生に上がった時です。
私の通っていた小学校では三年生、五年生に上がるとクラス替えがあったのですが、同じクラスだった仲の良い友達(以後A)と別クラスだった幼稚園からの友達(以後B)が同じクラスになり、私だけ別のクラスになってしまいました。自分だけ別のクラスになってしまったのは寂しく思いましたが、それが問題だったわけではありません。
ある日、BがAのことを叩いているのを目撃しました。些細な事で喧嘩になったらしく、私はすぐに止めに入り、その時は大きな喧嘩にはなりませんでした。ですが、翌日から二人はお互いを無視するようになり、次第に喧嘩する頻度も増えていきました。
Aは喧嘩になっても暴力には手を出しませんでしたが、Bは怒りやすく、すぐにAを叩いたり、蹴ったりしていました。Bは幼稚園の頃から絵に描いたようなガキ大将で、子分を使ってAに嫌がらせもするようになり、それはもう喧嘩ではなく、ただのイジメでした。
見兼ねた私はAのことを庇うようになり、そのことを快く思わなかったBはターゲットをAから私に変更しました。最初の頃はノートを隠されたり、授業中に消しゴムの破片を投げられる程度だったので、そこまで気にしていませんでしたが、日が増すほど酷くなっていき、Bの命令でAも私へのイジメに参加するようになりました。
学年が上がるにつれてイジメがエスカレートしていき、殴られたり、石を投げられたり、川に突き落とされたりするのが当たり前の毎日を過ごすことになった小6の私は我慢の限界に近かったです。ですが、先生に話すことはありませんでした。
その頃、ちょうど祖母が末期の癌で自宅療養中でしたので、家族に心配をかけたくなかったのです。クラスメイトが私のことを担任に報告した時も学校経由で家族に知られないように「イジメではなく悪ふざけ」と誤魔化しました。せめて祖母が安心して逝けるように、と亡くなるまでは隠し通そうとしていたのです。
中学に進学した後もBとは同じ学校で、祖母が亡くなるまで必死に耐え抜きました。祖母の死もあって精神的にもう無理だと自覚していました。しかし、看病や葬式などで疲れきった両親にイジメのことを言い出せず、祖母が亡くなった後もしばらく学校へ通いました。
結局、両親にイジメのことを話したのは中学二年の夏でした。学校を休み始めたことに疑問を抱いた両親にキツく問いただされて白状するような形で話しました。
しかし、イジメに理解のない父は「やり返さないお前がおかしい」と私を罵り、まともに話を聞いてくれませんでした。私はしばらく学校を休みたかったのですが、父はそれを許さず、亭主関白な我が家では母も学校に行くことを促すだけでその後、先生に相談したもののイジメは収まらず、死ぬ気で卒業まで通い続けました。
家から少し離れた高校に進学し、Bと離れることには成功しました。ですが、不安が解消されることはありませんでした。
高校でもイジメられるんじゃないか、外を歩いていたらAと鉢合わせするんじゃないかと考えてしまうのです。さらに周りの視線や笑い声に恐怖を抱くようにもなりました。
実際はただの被害妄想なのでしょうが、それでも自分の悪口を言われているんじゃないかと不安に思ってしまうのです。医者から診断を下されたわけではありませんが、対人恐怖症といった不安障害なんじゃないかと私は考えています。
そのせいで高校では積極的に友達を作れず、いつも一人でした。よくネットで自分は友達が少なかったと言っている方を見かけますが、私の場合は本当に友達がいませんでした。誇張なしにクラスメイトと授業以外で会話した記憶がありません。
授業を受けるだけで精一杯だった私は友達を作る為に何か行動するほどの余裕がなく、誰とも仲良くなれない自分が情けなくて毎晩泣きました。努力を怠ったから、と指摘されればその通りなのですが、それでも当時は真剣に悩んだ末に行動できなかったのです。
高校卒業後は大学に行かず、仕事にも就かず、ひきこもりになりました。誰とも顔を合わせたくなかったのです。外を出歩くことすら無理で、酷い時には窓から誰か覗いているんじゃないかと怖くなり、家の中でも窓の前を歩けなくなったこともありました。
ひきこもりになったことで毎日のように親と口喧嘩になり、家にいても休まることはありませんでした。本当ならこの時に精神科に診てもらうべきでしたが、中学時代に親に話していじめが解消されなかったことを引きずっていた私は「どうせ行ったところで何も変わらない」と最初から諦めていて行きませんでした。
その頃の私は自暴自棄になっていたのです。どうやっても自分の人生は良くならない。ならば、親が死んで金が尽きるその時までやりたいことだけやって生きよう、と。ひきこもりになったのは中学時代に助けてくれなかった親への復讐だと幼稚なことを考えていた時期もありましたが、ただ現実から目を背けて誰かのせいにしたかったのだと今になって猛省しております。
ひきこもりをしていた頃は夕方に起きて朝までネットゲームをするという典型的な生活をしていました。昼間はカーテンが開いていて、外から通行人や近隣住民の声が聞こえてくるので、夜の方が過ごしやすかったのです。
ネットゲームにハマったのはゲーム内で知り合いが増えたことがきっかけでした。私のやっていたゲームは仲間と協力してモンスターを倒す某有名ゲームで、自然と仲間が増えていきました。現実とは違い、顔を合わせることなく距離を置いた会話ができるゲームの世界は居心地が良く、こんな自分でも仲間に必要とされているこの世界こそ私の居場所だとある種の感動を覚えました。
だからこそ現実世界に戻ってこれなかったのです。高校卒業から二十六歳になるまでひきこもり生活は続き、社会に復帰するのが難しくなりました。ひきこもっていた七年間は私の人生で最大の汚点であると同時に人生で最も充実していた時間でもありました。
そんな私がひきこもり生活から脱したのは人恋しさを感じたからです。所属していたギルドのリーダーが結婚を機に引退することになり、それに続くように他の仲間達も就職や家庭を優先したいといった理由で辞めていきました。
ギルドが解散した時、一人置いていかれた気分になりました。ゲームの中にしか居場所がない自分とは違い、彼らには現実世界でも居場所があり、友達や家族がいる。いつかこうなる日が来ると覚悟はしていましたが、想像していた以上の寂しさに苛まれました。それからも寂しさを紛らわす為に新しいギルドに入ったりしてしばらく続けていたのですが、前の仲間達とやっていた頃の楽しさはありませんでした。
私は生きる目的を見失い、自殺を考え始めました。理解してもらえるかは分かりませんが、唯一の娯楽であったゲームすら楽しめなくなったのに生きている意味なんてあるのかと本気で悩んだのです。両親が死ぬまでやりたいことをやる、と馬鹿なことを考えていた私でしたが、やりたいことが無くなってしまうとは考えていませんでした。私が無駄な一日を過ごしている間にも、引退した仲間達は働いて家庭を築いていると思うと劣等感に苛まれ、生きていることが苦痛で一日中寝腐っていた日も多かったです。
ある日、ゲーム内で一通のメッセージが届きました。差出人は前のギルドで仲の良かったプレイヤー(以後Cさん)でした。「覚えていますか?」と書かれたメッセージに「覚えていますよ」と返信し、それをきっかけにCさんとコンタクトを取り合うようになりました。
Cさんとはお互いに「今はどこのギルドに所属していて何をしているのか」など近況報告から始まり、前のギルドでの思い出や引退した仲間達は今どうしているのかといった話をしました。特に思い出話はメッセージを送ればすぐ返信がきて何時間も続くほど盛り上がりました。
それからメッセージでやり取りしていくうちに、いつの間にかゲームをする為ではなく、Cさんと会話する為にログインしている自分がいました。ギルドが解散してから異様なほどの人恋しさを感じていた私にとって、唯一の楽しみとなっていたのです。ゲームと関係のない話もするようになり、Cさんが都内に住んでいる女性だということを知ったのもその頃でした。
正直に言ってしまえば、私はCさんに惚れていたのです。顔も知らない文面だけの関係でしたが、自分と会話してくれる女性というだけで私は好きになってしまいました。引かれていると思いますが、それだけCさんの存在に救われていたのです。
そして、メッセージを送り合う仲になってから半年経った頃にCさんから「実際に会ってみませんか?」と訊かれました。当然驚きましたし、Cさんに会いたいと心から思っていました。
ですが、私は断りました。
実際に会ってCさんをガッカリさせたくなかったのです。高校時代から人と会話してこなかった自分がまともな会話をできるとは到底思えませんでしたし、異性と何を話せばいいのか分かりませんでした。メッセージでのやり取りで「働いている」と嘘をついていたこともあり、そういう意味でも会うわけにはいかなかったのです。
この時、ひきこもりにならずに働いていれば、と死ぬほど後悔しました。自分の本当にやりたかったことは友達や恋人を作ることだったんだと気付き、今からでもまだ人生をやり直せるのなら……と私は決心を固めました。
決心を固めてからは自分でも驚くほど行動が早く、すぐに就職活動を始めました。もし仕事が見つかったら、勇気を出してCさんと会うつもりでした。そのおかげか意外にもあっさり外へ足を踏み出すことができました。しかし、どこへ行っても採用してもらえませんでした。面接までいっても「高校卒業後の空白の期間は何をしていたのか」「学生時代頑張ったことはなんですか」といった質問に上手く答えられず、資格や免許を持っていない私はことごとく落とされました。
その間もメッセージでのやり取りが続いていましたが、次第にCさんの方から実生活が忙しいのを理由に返信頻度が減っていきました。このままだとCさんも他の仲間達のようにいなくなってしまうんじゃないかと不安を抱くようになり、焦りながら就活を続けました。
最終的に落とされまくった私は貯金がない現状だけでもどうにかしたくて、コンビニでアルバイトをすることになりました。とにかく少しでも精神的な余裕を作りたかったのです。バイトと言っても人生で初の仕事でしたし、ひきこもりから脱したことには変わりないので、大きな一歩だと自分を褒めることにしました。
ですが、初歩的なミスばかりして店長には怒られ、年下の先輩には馬鹿にされ、精神的な余裕はありませんでした。両親からも「二十六にもなってアルバイトなんてするな」と罵られ、私は親と大喧嘩しました。子供みたいなことを言ってしまえば、アルバイトでも外に出ただけ褒めてほしかったのです。人一倍頑張ったところで、これが精一杯。今更やり直そうとしても無駄なんじゃないか。現実世界に味方なんていないんじゃないか。そんなことばかり考えるようになりました。
不安に押し潰されそうになった私は冷静に考えられなくなり、Cさんにメッセージを送りました。「会えませんか?」と一言だけ。誰かに慰めてほしかったのです。愚痴を聞いてもらえるだけでよかった。しかし、そんなことを頼める友人も恋人もいません。だから、この世で一番信頼していたCさんに縋るしかなかったのです。
しかし、Cさんから返事がくることはなく、そのまま音信不通になりました。
音信不通になった理由は分かりません。向こうからの誘いは断って、こちらから急に誘ったのが悪かったのかもしれませんが、過去のメッセージでのやり取りを見れば、それだけで音信不通になるとは考えづらいです。ですが、人との付き合いを長年怠ってきた私ですので、知らぬ間にCさんを傷つけるようなメッセージを送っていたのかもしれません。
ネットにも知り合いがいなくなった私は何もかもがどうでもよくなり、実家を出ることにしました。寂しさを通り越して、一人になりたくなったのです。
長くなってしまいましたが、ここからが本題です。
今は小さなアパートの一室で、ひっそり暮らししています。実家を出てから二年経ちますが、コンビニのバイトは今も続けていて生活はできています。
しかし、一人暮らしを始めても何も変わっていません。恋人も友人もできず、バイトに行くだけの二年間でした。気付けばもう二十八歳。おそらく十年後も同じような生活をしているでしょう。ただ生きながらえるだけの生活の中で、私は独り身のまま死んでいくことが怖くてたまりません。
だから一度だけでいいんです。
一度だけでも誰かに愛されてみたいのです。
恋人を作ろうとしてもどうやって出会えればいいのか分かりません。二十八にもなってフリーターである私を好きになる女性がいるとは思えません。顔が良くなければ、取り柄もない。コミュニケーションも免許もない。ないない尽くしの自分を愛してくれる人間なんていません。
それでもありのままの自分を受け入れてほしいのです。
二年間、バイトだけしてきました。遊びにも行かず、家とコンビニを行き来するだけでした。休日は家にばかりいたので、コンビニバイトでも100万円を貯めることができました。
この100万円を手放してでも私は誰かに愛されてみたいのです。
恥知らずだと罵られても私にはこういうやり方しか考えられません。もし、この書き込みを見た方で理想の彼女を演じてくださる方がいましたら、下のアドレスまでご連絡下さい。
×××××@△△△△△.com
本当に100万円を差し上げます。
私を助けてくださる方がいましたら、どうか一日だけでも夢を見させてください。
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