VSアポカリプス その2

「どうしてここに…!! すっごい助かったけど!!」

「ブルルル!! ヒッヒーン!!」

「おぉ!! 何言ってるか分からんけど多分飼い主の俺のピンチに駆けつけてくれたって事か!! 今日ほどお前と一緒に旅が出来て良かったと思った事は無いぜ!!」

「ヒッヒーン!!」


 ウマコを含め、戦に出さなかった馬小屋は神殿の外にあったがアポカリプスによる影響を多分に受けた。

 風圧で小屋が吹き飛び、馬が自由に出れてしまうようになったのだ。

 自身の危機を察した馬達は馬小屋から逃走、当然その中にはこのウマコもいたという訳だ。

 ただウマコが他の馬と違ったのは、主人もまた危機に陥っていると察し、戦場へと赴いたというその勇敢さと従順さを持ち合わせていたという事である。


「よっし!! これなら距離が取れる…!! 上手く走れれば援軍が来るまでの時間も稼げる…!! 行くぞ、ウマコ!! 俺に付き合ってくれよぉぉぉぉ!!!」


 そう言って、燈は手綱を握り締めるとウマコと共に風となって走り出した。

 ウマコに乗った燈とアポカリプスの距離は少しずつ、少しずつ離れていく。

 

『ギュァァァァァァァァァ!!!』


 それを感じ焦ったのか、アポカリプスは口から光線を放出した。


「っ!!」


 光線は地面を抉り、建物を悠々と倒壊させた。

 燈は鍛え上げたそこそこの乗馬スキルと、ウマコの性能によりそれを辛うじて避けていく。


「あっぶねぇ…!!」


 地面から漂う煙と地割れのように亀裂の入る光景を横目に、燈は息を呑む。


『ギュゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァ……!!!』

「なっ……!!」


 蜘蛛の足が、動く速度を加速させ…地面を激しく揺らしながら燈達に接近する。


「まだ早くなるのかよ……!!」

『アァァァァァァァ!!』


 そして横に立ち並ぶ建造物の一角を手で剥ぎ取り、燈達に向かって投げつけた。


「うあああぁぁぁぁぁ!!!」

「ヒヒィィィィィィン!!!」


 直撃は避けたものの、ウマコと燈は共にバランスを崩し、そのまま地面へと倒れてしまう。


「ってぇ…!!」


 落馬して地面に打ち付けられた燈は、痛みから苦痛の表情を見せた。

 ウマコも転倒し、横向きに倒れている。


 まずい…!! 


 ここからすぐに立ち上がった所でウマコを起こして再び騎乗するまでの時間でアポカリプスの攻撃射程に入ってしまう事は明白だった。


『ギュァァァァァァァァァ!!!』


 アポカリプスの手が、糸が燈に迫る。

 最早回避は不可能。


風舞輪ふうまいりん!!」


 そのはずだった。


「よぉまた会ったなぁ! だいじょぶかぁ!?」


 だが糸と腕をその大技で一気に斬り裂いたカイルが燈の前に姿を現した事で、アポカリプスの攻撃を免れる事に成功した。


「間に合ったみたいだな」

「ベルンさん…!」


 馬で登場した彼女の名を呼ぶ燈。そして次の瞬間、四つの影がアポカリプスに向けて飛来した。


「近くで見るととんでもない異形っぷりだな…!!」

「行くぞ!! 合わせろシムト!!」

「まさか聖地内にこんな魔獣が現れるとは…!!」

「大きいデスネェ!!」


 シムト、グレン、バンジョー…そしてブランカは同時に攻撃を繰り出す。


『ギュゥゥゥァァァァァァァァァ…!!!』


 隊長三名に加え護衛団の副団長の一撃。手練れの攻撃を同時に受け多大な傷を負わせる事に成功するが、それらはたちどころに修復されていった。


「はぁ!? 何だよアレ!!」


 初見のカイルはアポカリプスの力に目を丸くする。

 同じように、ここに来たばかりの他の面々も同じような表情だ。


「皆!! 聞いてくれ!!」

「アカシ、打開策を見つけたのか?」

「……はい。そのためには、ここにいる全員が力を合わせないと不可能ですけど」

「構わん。この時点で、協力を惜しむ者など存在しない」

『ゥゥゥゥゥゥゥゥユルサナァァァァァァァァァイ!!!』

「一先ずここは危険だ!! 距離を取りながら話を聞く」


 ベルンの冷静な判断に首を横に振る者は誰もいなかった。

 部下であるバンジョーは勿論…中立のブランカ、敵であるカイル、シムト、グレンもである。


「いや!! ベルンさんとブランカさん以外はここであの魔獣を足止めして下さい!」


 だがベルンの言葉をただ一人、燈が拒否した。


「それでいいのかアカシ?」

「俺の作戦を聞く必要はありません!! ただ、合図を送ったら…一斉に攻撃してくれればいい!!」


 燈の考えた作戦に綿密さは無い。

 一秒一秒を争う中で、可能な限り省略した説明を燈はその場の面々にぶつけた。

 

「すぐ戻ります!! ここは頼みました!!」


 起き上がるウマコに乗りながら燈は四人のエルフの背中を見る。


「乗せてもらっていいデスカ!」

「お前のような巨体を乗せる程馬は頑丈に出来ていない!」

「了解しマシタ!!」


 こうして燈とベルンは馬で、ブランカは走ってその場から離脱した。


『ギュゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァァ!!!!』 

「こいつを倒せば、聖地が守れんだな…!」

「行けるな…シムト?」

「……はい、正直ここまでの戦いで半分以上魔力と体力を消耗していますが、ここで脅威に立ち向かわないのは…聖地を捨てたのと同義です…」

「良く言った…」

「無駄口を叩くな…。死ぬぞ」

「…誰のせいで俺の力が半分まで力が削れたと思ってる…」


 敵と味方が賛辞と皮肉を言いながら各々の武器を持つ。


『ウゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァァ!!!!』


 叫ぶアポカリプス、直後ソレは周囲の瓦礫や建材の建物などを取り込み始め、その大きさは倍ほどに膨れ上がった。


「もう何でもありだな……」

「今更だ…。俺達のやる事は変わらない」

「っしゃあ気張るぜ……!!」

「ふん……」


 こうして四人はアポカリプスと対峙した。 



-----------------



「……ていうのが俺の考えた作戦です」


 燈の語った策、それを聞いたベルンは何とも言えない難しい表情を浮かべた。


「その…お前の『アンチート』と言うのが本当なのかどうか…この状況では判断しかねるんだが」

「俺の力が信じられないってのはよく分かります。ですが、今は信じてもらうしかない…!! 他に時間も、選択肢も無いんです…!! ここは、俺を信じて下さい!!」


 そう言って燈は頭を下げた。

 数秒の思考、やがて顔を上げたベルンは言う。


「分かった…お前の言う通り、今は時間も選択肢も無い…このまま何も行動を起こさなければ、ウルファスはあの魔獣に破壊の限りを尽くされる…お前を、信じよう」


 あの圧倒的な力を誇る魔獣を何としてでも止めねばならない。

 その思いから、燈の策にベルンは乗った。


「で…後はブランカさんにお願いしたいんですけど」


 燈はブランカの方へと顔を向けるが、当の本人はうーんと顎に手を当てて唸るだけである。


「だ、駄目ですか…?」

「そうデスネェ…。私だけじゃあ恐らく無理がありマス。少なくともあと一人…必要デス…」

「そ、そうですか…」


 くっそ…!! さっき全員をアポカリプスの足止めに行かせたのは間違いだったか…!!

 でもどうする…!! 今から戻ってもう一人を呼ぶ時間は無い…!!


 再び行き止まりに遭う燈達。

 だが、その時救世主の声が彼らの耳に届く。


「おい……!!」

「エ、エリス…!?」


 自身の剣を杖のようにしながら彼女は近づいて来た。


「ミラさん…!!」

『私がここまで案内しました』


 言ったのはエリスのすぐ近くを飛行していた妖精、ミラだ。


「そ、そんな事出来るんですかミラさん?」

『私はサーラ様と契約関係にあります。サーラ様は今あの魔獣に取り込まれている。そこから逆算し、周辺をしらみ潰しに探していたのです』

「説明はもういいだろ…!!」

「おいおいだ、大丈夫かよ…!!」


 急かすエリスを燈は心底心配する。


「あぁ…? ヤバいに決まってんだろうが…!! だけど、人が…必要なんだろ…!!」

「そ、そうだけど…!」

「おいブランカ!! アタシじゃ役不足か!?」


 エリスは圧を掛けながらブランカを睨み付けた。


「うぅーン。まぁ少し心もとないですが、回復魔法を掛ければ何とかなるデショウ! 分かりマシタ! 一緒にやりマショウエリス!!」


 エリスの負傷具合に一瞬だけ懸念の表情を向けたブランカだったが、すぐに笑顔でサムズアップをして彼女の参加を認めたのである。


「お前達三人の役割を考えれば、彼らに伝えるのは私か…すぐに配置に付くぞ!」


 ベルンの言葉を皮切りに、燈の作戦が開始された。 


-----------------


「おいこれ大丈夫かよ…?」

「随分とデンジャラスな試みデスネェアカシ!」

「しょうがないんですよ!! 怖いけど!!」


 直方体の家屋の屋上で、家内から持ってきた大きく厚めの板を、突き刺したエリスの剣で斜め立てるようにして支える。現在燈はその板の上に乗っていた。


 今あの魔獣は交戦状態にあって、意識はそっちに集中している…ここからなら、その虚を突ける!!


「いきますヨ、エリス!! さっき言った通り、しっかり合わせてクダサイ!!」

「分かってるよ…!!」


 ブランカの回復魔法と、魔力の譲渡により先程よりもかなり復調したエリスは答える。


 作戦はこうだ。

 まずこの場所から燈をアポカリプスの胸部目掛けて飛ばす。

 そして胸部から魔獣の体内へと侵入した燈は取り込まれているサーラへと触れる。そうする事でサーラのチートが無効化され、攻撃が通るようになる。

 そこを一斉に攻撃するというものだ。

 しかし、この作戦には問題点がある。その一つが今から行おうとしている「燈を飛ばす」という行為だ。

 カグのように軌道を変更する事が叶わないため真っすぐに飛ばす事しか出来ない…つまりアポカリプスがこちらに対し、正面を向いた…いや、正面を向く直前に燈を飛ばさなければならないのだ。

 更に、生半可な威力ではアポカリプスに激突して終わってしまう。あの魔獣の体に弾丸のような速度で放たなければ内部へは到達しない。

 この二点は、ほぼ全てエリスとブランカ…この二人が命運を握っている。

 今の二人に掛かっている重責は、並大抵のものではない。二人は無言で呼吸を合わせ、「機」を待っていた。


「……」

「……」


 遠くを見据え、拳を構える二人を包む空気はピリピリと揺れる。

 果実が熟すように、グラスに液体を注ぎ続ければ溢れるように、必ず来るソレを…二人は待った。

 体は常に動きをイメージし、最速の動作を叩き出すイメージを体に刻み込む。緊張しても硬直してはならない。

 か細い糸を掴み、時を待つ…その状態が続いた。

 額から出た汗が頬を伝い、顎から下へ落ちる。


 …そして、「機」は到来した。 

 

『っ!!』


 動作は異なるが、二人は各々の構えから拳を板へと打ち込んだ。

 火と風の拳、その両方が混ざり…新たな魔法へと昇華される。


『合技 爆発魔法:灼風人間砲台しゃくふうにんげんほうだい!!!』

 

 突発的に発生した爆発が、燈の乗る板の後ろで発生し、それに乗る彼は一瞬にしてその場から消え去った。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!!!」


 燈の正面から来る凄まじい風圧、目や口に大量に空気が入り込み、とんでもない表情になる。


『ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』


 先程の場所では、未だアポカリプスと四人のエルフ達が交戦状態を続けていた。


「まだかよ合図は…!! これじゃあこっちがもたないぜ…!!」

「このまま俺達がここに留められなければ負傷者や避難民に危害が及ぶ…!! 何としてでも食い止めろ…!!」


 カイルとグレンは自分の武器の柄を強く握り直す。

 その時だった。


「身体強化あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「って何だありゃぁ!!??」


 風圧を耐え抜き、恐怖で心臓を激しく鳴らしながら、


『ァ…ッ!!??』


 燈という名の弾丸が、アポカリプスの胸部へ撃ち込まれた。


「お前達良く聞け!!」

『っ!!』


 そして次の瞬間、馬でこの場に駆け付けていたベルンが伝える。


「今から十秒後奴の回復機能が停止する!! 全員で攻撃を叩き込み、額の宝石を破壊、中の核を破壊しろ!!」

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