これがハーレムって奴か

 ルークと共に燈は少女を治療出来る施設まで足を運んでいた。


「一先ず、これでいいわ」

「ありがとうございます。ミリンダ先生」

「お礼なんていいわ。どうしてもって言うなら体で払って♪」

「お断りします」


 などというやり取りを横目に燈は少女を見た。

 一通りの治療を終えた少女は眠ってしまっており、その顔はとても安らかだった。


「それにしても、ルークがこんな子連れてくるもんだからびっくりしたわよ」

「すみません。でも魔物の血が入っている子を一般の治療施設に運ぶ訳にはいかないので」

「ま、そうよねぇ。そうなると私の所に来るしかないと」

「そういう事です」

「あ、あの・・・」


 ミリンダと呼ばれた女性とルークの会話が一段落したと思われた所で燈は口を開いた。


「本当にありがとうございます!この子を治療してくれて!そ、それであのお金なんですけど俺今持ち合わせが…」


 持ち合わせどころか、燈はこの世界で流通している硬貨を実際に持ったことすらなかった。


「別にいいわ。気にしないで、あなたのおかげで今日はルークに会えたもの。この子いつでも来て良いっていってるのに全然来てくれないのよ。ひどいと思わない?」

「怪我もしてないのに学校の診療所にそんな頻繁に行くわけないでしょ」


 現在燈たちはセンチュリオン騎士学校内にある診療所に居る。ルークがここなら情報が洩れず、しかも他の医療機関よりも上質な処置が受けられるとの事だ。というのも担当医であるミリンダの医者としての腕がとても大きいという。


「一先ず状況も落ち着いて事だし、今度はアカシの話を聞かせてほしい」

「え、お、俺?」


 急に自分の話題を振られた燈はたじろいだ。


「そうね。そんな恰好で魔力の事も知らなかったんでしょ?気になるわ」 


 ミリンダも同調し燈を見る。


 ま、まずい…。話を先延ばしにしてたけどこの子を助けるのに必死で言い訳全然考えてなかった…!!


「そ、そうっすねぇ…。お、俺の事かー…」


 神様みたいな奴にこの世界に飛ばされたからこの世界の事何にも知らないんです。

なんて言っても信じてくれないよなぁ…。

 記憶喪失って事にするか。でもそれも信じてくれないだろうし…。どうすりゃいいんだ…。

 い、いやもっと考えれば出て来るだろ俺!!伊達に二十数年生きてないんだ。上手い言い訳の一つや二つ、出ない訳ないだろ!!


「何か、記憶喪失みたいで…ほとんど…何も覚えて無いっすねぇ…」


 出ませんでした。


「「記憶喪失?」」


「い、いや…俺ついさっき裏路地で目が覚めて、で全裸だったからそこら辺にあった。布巻いて街を散策してたって感じで…」


 動揺を隠しながら(隠せてない)燈は真実のみをで話を構築する。


「ふーん。成程な、事情は分かった」

「だ、だから……ってえぇ!?信じてくれるのか!?」

「あぁ、信じるよアカシの事」

「で、でもどうして?正直俺がお前の立場だったら胡散臭いって疑うぞ」

「あはは、そうかもな。でも…お前はあの子を体を張って助けただろ?だから、例えお前が記憶喪失じゃなかったとしても、俺はお前を信じる」


「ル、ルーク…。あ、ありがとう!!」


 ルークの心意気に思わず燈は涙が出そうだった。


「じゃルークが言うから私も信じるわ」


 そう言ってミリンダはにっこりと笑う。


「とりあえずこっちから色々説明しても混乱するだろうし、何が聞きたい?」

「そ、そうだな…」


 燈は腕を組んで思案し始めた。

 彼がまず最も聞きたかったのは、チートを能力についてである。

 一体誰が持っているのか、一体どれ程の影響力をこの世界で持っているのか。とても気になる事ばかりなのだ。


 で、でもいきなりチートとか言ってもなぁ…。


 燈の考える事は最もである。

 記憶喪失と言い、魔力の存在も知らなかった男が突然『チート』などと言うのはどう考えても不自然だ。

 それならばまずはもっと外堀から聞いて行きそれについて相手から語らせるのが最も得策だろう。


「やっぱり魔力?について教えてほしいな」

「魔力か、そうだよな。存在も知らなかったみたいだし。じゃあ魔力と魔法について説明するよ」


 そう言ってルークは手から小さな火を出した。


「お、おぉ!?」

「俺達の体内には魔力がある。その魔力で魔法を行使して、色々な事が出来るってのが大雑把な話」

「その魔力って言うのは俺の中にもあるのか?」

「もちろん。アカシにもあるし、さっきの商人にもある」

「ほ、ほんとに一般的なものなんだな…」

「体内の魔力量はその人の才能で大分変るけど、経験や訓練を重ねれば魔力量は増やせるし、一度の魔法で使う魔力量を減らす事が出来る」

「へー…」


 知らない概念過ぎて言われてもよく分からないな…。


「で、次は魔法。種類は大きく分けて二つ、有属性魔法と無属性魔法だ」

「ゆ、有属性?無属性?」


 またも新たな言葉の羅列に燈は首を傾げる。


「有属性には特性が関係する。特性には火、水、土、風、土、光、闇の六つ…まぁもう一つあるけどそれはこの国の人には関係ない。例えば火の特性があれば火の魔法を使う事が出来るし、風の特性を持ってれば風の魔法を使う事が出来る」

「あ、てことはルークは火と風の特性を持ってるって事か?」


 今火を出している現状と先程風を発生させていた事から燈はそう結論付けた。


「そうそう、有属性魔法については後は上位特性の話があるけどまぁ基本的な事はとりあえずこれくらいだ。次は無属性魔法の話」


 そう言ってルークは自分の体に力を入れた。


「よっと!!」


 次に彼は拳を床に叩きつけた。鈍い音が部屋中に響く。彼が拳を床から上げると


「うえ!?」


 そこには穴が開いていた。


「これが無属性魔法の基本、『身体強化』。さっきの商人が使ってた魔法だ」

「し、身体強化…だからあのおっさんあんなに強かったのか。そういえば魔力とか何とか言ってたな」


 燈はあの商人がとても普通の人間の攻撃の威力では無かった事への合点がいった。


「特性が関係ないのが無属性魔法。魔力を持つなら誰でも出来るようになるのが特徴。だけど決して楽じゃない」


「それもキツイ訓練を積まないとって事か?」


 燈の問いにルークは頷いた。


「なるほどなぁ…。ありがとう。魔力と魔法、概要くらいは掴めたよ」

「それは良かった」


 出会って未だ二時間程しか経っていないが、燈とルークには確かに友情のようなものが芽生えていた。


「ていうか何床壊してるのよルーク」

「ごめんごめん先生。今直すよ」


 ルークはそう言って床の破損個所に手をかざす。するとそこが光り、彼がそこから手を離すと床は綺麗に修繕されてた。

 魔法や魔力、この数時間で元の世界とはかけ離れたファンタジーを目撃した燈にとって今更これくらいでは驚かなかった。

 その時である。


「ルゥゥゥゥゥゥクゥゥゥゥゥゥ!!!!!」


 ルークを激しく呼ぶ声が廊下から聞こえてくると、診療所の扉が勢いよく開かれた。


「リム。今日の授業は終わったのか?」

「うん!」


 快活な表情で答えたのはルークと同じく制服を着た少女だった。そしてとても美少女だった。

 リムは勢いよくルークに抱きつく。


「今日もちゃんと授業最後まで出たよー!褒めて褒めて!!」

「はいはい」


 苦笑しながらルークはリムの頭を撫でた。


「え、えーっと…」


 あまりの唐突な新キャラとそのキャラの濃さに燈は目が点になった。


「紹介するよアカリ。この子はリム・バードン。俺の友達」

「ど、同級生って…」


 恋人じゃないの?と言おうとしたが燈は必死でその言葉を飲み込んだ。


「はい!リムです!ルークの幼馴染で、将来はルークのお嫁さんになります!」

「幼馴染!?」


 幼馴染でそんなにスキンシップが激しいのにまだ友達止まり…!?嘘だろ!  


 内心で激しく燈は動揺した。


「あーリム先輩またルーク先輩にくっついてずるいです!」

「全く、抜け駆けは許さないわ」


 次いでそんな声が診療所の入り口から聞こえる。

 現れたのはリムよりも背は小さいが出るところが出ている美少女と高身長だがもう一人と比べると貧相な体つきの美少女だった。

 二人は燈などに目もくれずリムと同じようにルークに抱きついた。


「……」


 燈は最早言葉も出なかった。

 そ、そう言えばミリンダ先生もルークの事好きっぽいし…ひょっとしてルークメチャクチャモテる感じ?え、何これが俗に言うハーレムって奴か?

 現実世界で見た事の無い男の取り合いを目にしながら燈は唖然とした。

 

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