第5話 商店の拒絶
翌日、佑吾たちは日が昇る前に起床した。
そして日の出とともに、ライルと一緒に帝都に向けてアフタル村を出発した。
先頭をライルが歩き、その後ろを佑吾たちが付いていき、最後尾は佑吾という形だ。
佑吾は、エルミナが一人で駆け出さないように、しっかりと手を繋いで歩いていた。
そのエルミナはと言うと、初めて見る村の外の景色に、目をきらめかせて辺りを見回していた。何かを見るたびに駆け出そうとして、佑吾の手が引っ張られるので、手を繋いでいて良かったと佑吾は苦笑した。
これは自分がしっかりしとかないといけないな、と思った佑吾だったが、それは難しそうだった。
なぜなら、佑吾自身も初めて見る村の外の景色に、圧倒されていたからだ。
「これはすごいなぁ……」
深く綺麗な青色の空に、果てしなく広がる青々と茂る草原、そして遠くにそびえ立つ立派な山脈や、鬱蒼と茂る森の木々。
日本にいた頃、佑吾はこれほどまでに自然豊かな景色を見たことがなかった。
「あ、あそこに蝶々がいる!」
「風が気持ちいー!」
「〜♪」
エルミナは見るもの全てに感動し、素直にはしゃいでいた。その度に、佑吾の手が引っ張られた。
コハルは広い草原を見るや否や、楽しそうに駆け出した。佑吾が声をかけなかったら、一日中走り回っていそうだ。
サチは表情には出ていなかったが、尻尾を左右にゆっくり揺らし、鼻歌を歌いながら楽しそうに周囲を見渡していた。
「ふふっ」
その三人と一緒に楽しんでいる自分に気づき、佑吾はライルの言う通り、これは自分たちにとって良い経験になるなと、嬉しく思った。
帝都へと向かう道中、魔物と遭遇することはあったが、ライルが言ったように魔物たちは弱く、数も少なかったため、難なく対処できた。
佑吾たちは、適度に休憩を取りつつ、歩を進めていった。
やがて日が傾き始めると、佑吾たちは野営に最適な場所を探し出して、野営の準備を始めた。
火を焚いて、夕食の準備を始める。
材料は持ってきた食材と、道中ライルが弓で仕留めたうさぎだ。
調理はいつもやっているサチが進めて、エルミナとコハルはその手伝いをしていた。
佑吾とライルはと言うと、周囲を警戒しながらみんなの寝床を整えていた。
しばらく作業をしていると、サチから「料理ができたわよー」と呼ばれた。
今日の夕食は、パンとうさぎ肉のシチューだった。
みんなで焚き火を囲むように座り、三人が作ってくれたシチューを味わう。
ミルク風味の温かなスープとトロトロに溶け込んだ甘い野菜、そして何より柔らかく煮込まれたうさぎ肉が、佑吾たちの舌を楽しませてくれた。
夕食を食べた後は一時間ほど各々後片付けをしたり、武器の手入れをしたり、魔道書を読んだり、自由に過ごした。
そして、寝る時間になると、エルミナを除く四人がそれぞれ交代で不寝番につきながら、睡眠を取った。
その翌日も、佑吾たちは日の出とともに出発した。
エルミナの体力が心配だったが、さすが元気盛りというか疲れている様子は見られなかった。
今回の遠出が想像以上に楽しく、興奮しているようだった。
昨日と同じように、佑吾たちは帝都に向けて街道を歩いて行った。
帝都に近づくに連れて、遭遇する魔物の数は減っていった。恐らく、人通りが多くなる分、魔物も近寄ってこないのだろう。
そのお陰で、二日目の移動はただ街道をみんなで歩いていく、それこそ遠足のようなものになっていった。
夕日が沈み始めた頃、佑吾たちはようやく帝都ヴァルタールへと到着した。
門で帝都に入る手続きを行い、佑吾たちはようやく帝都の中に入国した。
「うわぁ……!!」
隣にいるエルミナが、感嘆の声を漏らした。
門をくぐった先の光景に、佑吾たちは圧倒された。
門の先には石造りの綺麗な街並みが視界いっぱいに広がっており、通りにはもうすぐ夜になるというのに、大勢の人が歩き、賑わっていた。
静かなアフタル村の夜と違う光景に、佑吾たちは興奮しきりだった。
「ははっ、そわそわするのも分かるが、まずは宿に行こう」
佑吾たち四人が慣れない景色に浮き足立っている様子を見たライルは、それを微笑ましく思いながら、佑吾たちを連れて宿へと向かった。
そしてその日の夜は、みんな旅で疲れていたのか夕食を食べて、すぐに就寝した。
翌日、佑吾たちは自分たちが持ってきた商品を売るために、帝都にある商店へと向かった。
しかし、その商店で問題が起こった。
「すまんがあんたらと取引はできん。帰ってくれ」
店に入って話しかけるなり、店主の表情が固まり、いきなり拒絶された。
その後、ライルが丁寧に話しかけても無愛想な対応しか返ってこなかった。
こちらの話をろくに聞かずに、帰ってくれの一点張りだった。
「……理由は分からんが仕方ない、別の店へ行こう」
結局、佑吾たちは諦めてその店を出て、別の店を探すことにした。
しかし、見つけた他の店でもほとんど同じように拒絶され、持ってきた商品を売ることはできなかった。
何軒も何軒も店を回ったが、どの店も理由を話さず、「取引はできない」と佑吾たちを拒絶した。
なぜ話を聞いてくれないのか、と理由を尋ねても、どの店もはぐらかすばかりで、まともに相手をしてくれなかった。
途方に暮れた佑吾たちは、いつの間にかお昼時になっていたのもあって、昼食を取るために大衆食堂へと入って行った。
「一体、何が起こっているんだ……」
「この後、他の店にも行ってみますか?」
「いや、さっき回った店はどうも俺らを相手にしたくないようだ。その理由を先に知りたい」
「でも、お店の人は理由を聞いても答えてくれませんでしたよ?」
「ああ、だから商店以外の人に聞く」
つまり、商店が佑吾たちを避ける理由を聞き込みで集めようというわけだ。
その作業の大変さを考えると、佑吾は少し憂鬱になった。
佑吾が料理を口に運びながら周りを見ると、サチも「うえぇ」と少し嫌そうに顔をしかめていた。
コハルは美味しそうにフォークに刺した肉料理を頬張ってモグモグと味わい、エルミナも美味しそうにスープをこくこくと飲んでいた。
しばらくの間、思い思いに料理を味わっていると、
「ねえ、あんた達ってアフタル村の人?」
佑吾たちに、見知らぬ少女が話しかけてきた。
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