フリマアプリで女勇者を買いました。

泥水すする

プロローグ的なやつ


『女勇者を商品カートに入れますか?』


 強いて言うなら、ほんの出来心に過ぎなかった。


 特に意味もない。それでももっともな理由付けをするならば、興味本位というやつだろうか。


 フリマアプリ、なんてものがある。分かりやすく言うと、ネット版のフリーマーケットってやつだ。


いらなくなったものをネットに出品して適当に値段をつけ、誰かに買ってもらうという仕組みである。


ただ注意事項としてはなにぶん素人が売り買いする場なので、思っていたものと違ったものが届いたり、最悪の場合は商品の箱だけが届き中身がないなんて詐欺まがいなことをあるみたいだ。


 全ては自己責任。ある程度騙される覚悟ってのも必要なのだろう。じゃなきゃ痛い目見るのは自分自身だ。


 その点、俺はそれらに対してなんら期待も寄せちゃいなかった。


やれ「息子が一生懸命拾ったどんぐりです」なんてものが500円相当で売られていようが、やれ「声優○○のサイン付きTシャツ。雑巾に使ってください」と推していたアイドルが入籍したもんだから手のひらを返す見苦しい出品者がいようが、別にそれはそれってだけだと割り切るくらいには冷静だった。


 人間ってのはそういうものだ。高尚な生き物じゃない。若干17歳にして、俺の心はすでにそこへ行き着いていたのである。


 だから、ほんの出来心だったんだ。寝る前の寝つきが悪かったことを災いしている。もしくは一人暮らしの寂しさに嫌気がさしていたこともある。いずれにせよ、俺はフリマアプリを適当に眺めていた。


『女勇者』


 と、訳のわからない項目を発見してしまった。ゆーしゃ? なんだそれ? 商品のイメージ画像はなかった。概要欄にもなにの記載はない。ただ『ゆーしゃ』という謎の商品が、たったの1円で売られていたのである。


しかも送料込みで。ひと目で直感したよ。


「ああ、これ。ゴミが送られてくるやつだ」ってね。


 俺だってバカじゃない。こんな明らかな地雷を踏むわけないだろ。分かっている。これは邪な感情を抱く悪い人間が仕掛けた罠だ。そうに違いない。


 分かっては、いたんだが……


「でもまあ、1円なら」


 言うならば、怖いものみたさ。どんなものが届いたって驚きはしない覚悟ってのは、昨晩の俺にはあったのだ。深夜のおかしなテンションってやつさ。


もしくは、変化を欲していたのかもしれない。消える魔球。曲がる打球。落ちるホームラン。そんな甲子園を見てみたい。そんな妄想の実現。こんなどうしようもなく有り触れた普遍的な日常ってのを変えてくれる、とんでもない変化ってやつをさ。


 そんなにも廃れた青春に準じる高校二年生の春──


 俺の家に、『女勇者』がやってきた。

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