問0-0 席替え


「恋といふものは、いばらの道なのでしょう」


 銀杏の葉は、黄緑色から黄色に移り変わっていた。黄緑色と黄色のグラデーションは、僕の心模様を映しているような気がした。

 

 教室内では、プリントとシャーペンの芯の摩擦音が共鳴していた。6限目のホームルーム時間は、テスト直しの時間になった。しかし僕の瞳の焦点、ピントは、机上に置かれた答案用紙ではなく、遥か遠くの彼女の後ろ姿に合っていた。


 僕の名前は、滝沢馬琴。

 ――ではない。秀明でもなく、ななえでもなく、カレンでもない。

「滝沢純之介」である。


 高校二年生、17歳。


 僕は今、同じクラスの女子に、恋をしている。とても麗しい女子だ。名前は白鳥奏。


「しらとりかなで」


 僕は汚れていない、白紙のノートに書いてみた。なかなか良い響きである。名づけたと思われる彼女の両親を、僕は密かに尊敬している。もちろん面識はない――。





つづく






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