聖域のヒミツ

「……うわあ。それはないですよ、タケナカさん……」


 朝。食卓でキャベツを齧っていた俺に、ミーシャは引いた顔でそんな事を言う。

 おかしい。塩ならともかく、キャベツは人間の食事のはずだが。


「キャベツを一枚丸ごとって……ウサギじゃないんですから」

「見た目が大きいから満腹感あるんだが」

「せめて千切りにしてくださいよ。ていうかタケナカさんの魔力の大きさって、その修行じみた生活で得られたものだったりします?」

「……ナナも同じような事言ってたな」

「だから言ったじゃないですか……」


 横に座っているナナが溜息をつく。

 ちなみにナナは食べる必要が無いらしい。

 理由を聞いたら神様だから、という返事が返ってきたがよく分からない。


「で、どうしたんだ朝から。確か飛行船で泊まるとか言ってなかったか?」

「そりゃまあ……此処、空調もありませんし。これ、旧世界の建物でしょう? レトロ過ぎて半端じゃない大改造しないと、最新には届かないんですよね」

「……いや、そこまでされると電気代が」

「今のところ、『準』がつきますけど国の施設扱いですからタケナカさんに支払いは発生しませんよ」

「思うようにやってくれ」

「ちょっとオーマさん!? 国の施設ってそれ、接収されてません!?」

「してませんよ。形式的には私達が間借りしてるって事になってます」


 その辺り色々面倒なんですよね、と言うミーシャだが、俺にはよく分からない。

 だが支払う減るのはいい事だし、特に問題はないだろう。


「あ、そういえばこれは別件なんですけど、前庭にあったあの小さい建造物、壊していいやつですか? ほら、あの『住みにくい妖精の家』みたいなやつ」

「アレはダ」

「ダメだ。アレはこの家の重要な施設の1つでな。詳しくは説明できないが、あの場にある事が重要なんだ」


 ナナの台詞に被せるように、俺はそう答える。

 アレは確かナナの神殿のような扱いだったはずだ。確かこの家全体が聖域のようになっているはずだから壊しても家自体が神殿の役割を果たすのかもしれないが、だからといって壊していいという理由にはならない。


「そうですか、分かりました。まあ、如何にも何かありそうですもんね。この場所、聖域反応も出たみたいですし……『知られざる神』が眠っているかもしれません」

「知られざる神……?」


 その言葉は、少しばかり聞き捨てならない言葉だった。

 知られざる神。

 もしかすると、ナナがそれかもしれないのだ。


「ええ、そうです。神名辞典にも載っていないとされる新神、もしくは旧神です。まあ、バンレイアの旧神については大体発見されたと言われてはいますけど」

「バンレイア……異世界の……か。地球のはないのか?」

「あ、その発言は地球主義派って言われちゃいますよタケナカさん」

「そうなのか。社会情勢にはあまり詳しくなくてな。気を付ける」

「そうしてください。で、地球の神々は……ほら、あんまり大きな声で言えないですけど、地球では神々の実在について疑問視してたところあったらしいじゃないですか」

「まあ、な」


 それについては俺も聞いたことがある。

 旧世界の地球では、神の存在を信じる者はいても神を見た者についてはごく僅か……あるいは存在しなかったらしい。

 その事から、地球に神は存在しなかったとする説が有力だという。

 ……まあ、ナナを見る限り実在したのだと俺は思っているが。


「それに、居たとしても世界融合時の消滅度が高かったのは地球の方ですから。次元の狭間に呑み込まれたか、消滅しちゃったとは思いますよ」


 今この世界にいる神々は、世界融合時に誕生した神々が主であるという。

 そこに異世界……バーンレイアの旧神や、新たに生まれた新神を加えた構成となっている。

 その為、叡智の神と知識の神、みたいな役割が被っている神もいるらしいが、それはさておき。


「……次元の狭間、か」

「ええ。ま、この数千年の間に一柱も見つかってないんですから、今更見つかる可能性も……まあ、ゼロとは言いませんけど低いとは思いますよ」

「見つかったら騒ぎになりそうだな」

「うーん。どうですかねえ……まあ、ドヤ顔で色々言ってた偉い先生たちはひっくり返るかもしれませんけど」


 アハハッと笑いながらミーシャは「それはさておき」と話題を切り替える。


「神様についてはいいです。それでですね」

「それだ。聖域だとか分かるんなら、神についても分かってるんじゃないのか?」

「えー……さておきって言ったのに……随分食いつきますね。ま、いいです。えーとですね、聖域ってのは魔力が浄化状態にあるから分かるんであって、神の存在を示すものではないんですよ。たまに何の理由もなく浄化状態にある土地もありますし」

「そうなのか」

「そうなのです」


 頷くミーシャは、「じゃあ、今度こそ本来の話題に戻しますね。いいですよね?」と聞いてくる。

 わざわざ断らなくてもいいだろうに……まあ、話を続けたのは俺か。

 とりあえず、ナナの正体が露見して大騒ぎになる……というのはなさそうだ。


「昨夜契約書は交わしましたけど、実際の活動についてのお話です」

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