第273話「推し燃ゆ」読了(ネタバレあり)

 ちょっとづつ、ちょっとづつ読み進んでやっと読み終えた。私にとってこの本を読むことは苦行に近かった。とにかく主人公に感情移入できない。なぜかと言えば、主人公は生きづらさを抱えているが、その問題に向きあうことをせずに、ひたすら好きなアイドルに熱中している。もはや逃避としか思えない。

 何か問題が起きると推しているアイドルに夢中になり、現実逃避する。関心がアイドルにしかないため、周りとの人間関係が希薄だ。なので困ったときに周りの人間が全く助けにならない。そして、周りの人間の情というものをほとんど感じない。

 若い子がこんな状況に陥ったら、もはや救いがない。ラストでは多少の前向きな意気込みを感じるが、果たしてこの子はこの先、生きていけるのか不安になる。

 この作品が話題になったのは、この主人公の境遇に共感する人たちが少なからずいるからだろう。しかし、最後まで私が共感することはなかった。こんなに読んでいて苦しくなった小説は珍しい。著者はよっぽどこの世に生きづらさを感じているのだろう。

 若い子たちに、こんなにも生きづらさを感じさせる現代という時代。個人的な生きづらさという問題を超えて、社会がその問題の根底にその原因を含んでいる気がする。なんでも最後は自己責任だと言って切り捨てる。切り捨てることは簡単であるが、見守って育てるということをしなければ、それは教育とは言わない。

 親が子を普通ではないと切り捨てることは、全ての責任放棄だ。自己責任という名の切り捨て。この主人公の親の態度に一番腹が立った。

 感情移入できないと切り捨てるのではなく、この子の諸問題を社会を考える上での糧として生かしていきたいと思う。考えさせられる本であった。

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