番外編1 シベリアのウドン粉料理2

「林芙美子が、ぺリメニを食べたなんてこと書いてあったかな」

「はっきりとは書いてありませんけど、『下駄で歩いた巴里』の西比利亜の旅のくだりに、それらしきこと書いてありましたよ」

「岩波文庫だったかな、確か」


 私は、読書記憶のページをくって、そのくだりを見つけ出す。


 「西比利亜の寒さは何か情熱的ではあります。」と記し、シベリア鉄道を一人行く作家は、持参した食料に飽きると(長旅なので自分で調達した食料を持ち込んでの列車の旅)、食堂車で食べたり、売りにきたものを買い食いします。

 その中に、たびたび登場する「ウドン粉」料理。


「まず、運ばれた皿の上を見ますと、初めがスープ、それからオムレツ(肉なし)、ウドン粉料理(すいとんの一種)、プリン……」


 すいとんの一種という言葉からイメージできるのは、シベリア風ゆでだんごとロシア料理の本で紹介されていたぺリメニ。

 どちらかといえば、すいとんというより、水餃子のイメージが形としては近い。


「二箇一ルーブルで買って、肉の刻んだのでもはいっているだろうと、熱い奴にかじりつくと、これはまたウドン粉の天麩羅でありました。」


 これは、ラム肉でも入っていれば中央アジアの郷土料理チェブレキだろうけれど。

 もしくは、具無しピロシキ?

 そういえば、揚げぺリメニというのもラトビアだったかにあるらしい。


「スープ(大根のようなのに人参を少し)、それにうどん粉の酢っぱいのや、(すいとんに酢をかけたようなもの)、蕎麦の実に鶏の骨少し、そんなものでした。」


 今度のはひらながでうどん粉、そして、酸っぱいとあるのは、中身が塩揉みの乳酸発酵で作るロシア風ザワークラウトのカプースタだからか、それとも、すかんぽ入りの酸味のあるスープでゆでられたからだろうか。気になるけれど、それ以上の情報は読み取れない。


 だいたい、小麦粉でなくてうどん粉というのが、昭和初期を思わせて、実際には知らない時代なのに、なつかしさを覚える。

 

 実際は、うどん粉は、薄力粉、中力粉、強力粉と分類される小麦粉の中では、中力粉に当たる。

 グルテンの含有量で分類されるのだが、うどんのこしとぷるんとした弾力がほどよく生まれるのが中力粉なのだ。

 水餃子を思わせるぺリメニには、確かに、中力粉のうどん粉がふさわしい。


「凪田先輩、今の暗誦、泊先輩みたいでしたね」


 私は、どきりとする。

 無意識のうちに記憶していた文章を口にしていたのだ。

 それも、泊愛久とまりめぐがしているように、没入して。


「しゃべりながらだと、思い出しやすいから」


 私は、これが記憶探索の自分のスタイルだと言いわけがましく言うと、入場チケットを持ったままの手で、前髪をかきあげた。






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