第41話『擬装テロリスト』 

須之内写真館・41

『擬装テロリスト』       



 そのクルーたちに、直美は微妙な違和感を感じた……。


 同じ映像関係者だから分かった。そのクルーたちには、被写体である「しなの」への興味が感じられなかった。

 A放送と言えば、反保守で通ったA新聞の系列なので、反自衛隊の立場でではあろうが、反対なりの関心の持ち方でカメラを回すはずだ。それが、とてもおざなりなのだ。

 カメラをパンして撮るときは、あらかじめ最終目標物に体を向け、捻って別のものを撮り、その捻りをもどしながら目標物を撮る。それが、カメラマンは体ごと向きを変えている。あれでは映像がブレてしまう。


 怪しい……そう思った直美は、レンズの倍率を上げてA放送のクルーたちを観察した。


「あ、栄美がいる!」


 マイクを持ったリポーターは、直美の古い記憶を呼び戻した。栄美は一年だけ在籍したたかもめ女子高校の同級であった。

 かれらは、ほぼ真っ直ぐにブリッジを目指した。同乗している他のテレビ局と動線が明らかに違う。


 しばらくすると、栄美がブリッジからウィングに出て、とっさに身をかがめるのが分かった。

 同時にブリッジが一瞬光ったかと思うと大爆発をおこし、ブリッジの窓から炎が吹きだした。遅れて爆発の振動と衝撃が伝わり、続いて血まみれの乗組員や、見学者たちがブリッジから飛び出してきた。


 ブオー! ブオー! ブオー!


 すぐに警報が鳴り、甲板にいた乗組員たちが、消火と救出作業にあたった。

――緊急事態です。艦内見学の方々は、乗組員の指示に従って、ただちに退艦してください。乗員は警戒態勢Aとなし、警戒を厳となせ――

 直美は反射的にブリッジ方向に走った。それは、出口である艦尾のラッタルに向かう動線と重なっていたので、誰も怪しみはしなかった。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 直美は、一般客に混じって逃げようとしていた栄美の腕を掴んだ。栄美の目に一瞬の懐かしさが浮かび、直ぐに恐怖心に変わった。

「犯人は、A放送のクルーたちです、逃がさないで!」

 いつのまにか、近くに来ていた鈴木が、A放送のカメラマンに足払いをかけていた。

「プロのカメラマンが、カメラ置いて逃げるわけないだろ、このテロリスト野郎!」

 この一言で、A放送のクルーたちは、全員身柄が確保された。


 この『しなの爆破事件』で、死者三名、重傷十三名、軽傷二十五名が出た。しなのは沈むようなことは無かったが、CICに次いで重要なブリッジの内部が破壊されたので、数ヶ月の修理が必要になった。

 そして、マスコミは日本的な異常反応を示した。

 テロリストへの非難よりも、テロの目標になった自衛隊への非難が大きく報じられたのだ。

「必要なのか、過剰な装備!?」

「テロの火種、海自の最新鋭艦。問われる日本の防衛政策!」

「自分の身さえ守れない自衛隊!」

 そして、痛々しく流される被害者の映像やコメント。


 テロを許した日本の法律の不備と、対テロ対策の甘さを指摘する声は、ほとんど聞こえてこなかった。


 そんな中、直美は、拘置所の栄美に面会に行った……。


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