第27話『父の秘密・青色のDVD』
須之内写真館・27
『父の秘密・青色のDVD』
「……承知しました、そのように変更させていただきます。ありがとうございました」
直美は成人式の撮影スケジュ-ルの変更をパソコンに打ち込んだ。
「お父さん、八日の東条さんの撮影、午前が空いてたから入れ直しといた……」
すれ違いざまに、直美は父の玄一に声をかけた……が、返事がない。
「お父……ま、いっか。パソコンには入れといたから」
須之内写真館は、ジイチャンの玄蔵が仕切り、この二三年は孫の直美がアシスタントをしてやってきている。
父の玄一は、経営とかマネジメントには疎く、あてがわれたスケジュ-ルに乗ってスタジオの撮影やら、出張撮影に出かける日々であった。
その玄一が、この二日ほど変なのである。
口数が少なく、自分の小部屋に籠もっては何やらやっている。
「直美、ちょっと見てくれないか」
玄蔵ジイチャンが手招きして、モニターを示した。
「……え、これ、お父さんの部屋じゃない!」
なんと、玄一の部屋には隠しカメラが仕掛けられていた。
「あそこは、もともと物撮り用のスタジオだった。ここんとこ何年も仕事が無いんで、玄一に貸したんだ。カメラは、その撮影用。この写真館の据え付けカメラは、全部、このモニターで見られるようになっている」
「ジイチャン、いつの間に?」
「オレも、そういつまでも元気ってわけにはいかないからな。足腰立たなくなっても、店のカメラは、全部チェックできるようにしてあるんだ。玄一も知ってるはずなんだがな」
父の玄一は、小さな段ボール箱からマスコットや筆箱などの小物を取りだしては、しみじみと見つめている。色や柄から女の子の持ち物と思われる。
「あれ、直美のか?」
「ううん、あたしのじゃない……」
やがて玄一は青いDVDを取り出してデッキにかけた。
「……女の子の写真のようだな」
「うん……」
そのDVDには、赤ちゃんの時から中学生時代ぐらいまでの女の子の写真が写っていた。時々母親らしいきれいな女の人が、いっしょに写りこんでいた。中学入学の写真は「入学式」の立て看板といっしょに写りこんでいるので、親子と思われた。
そして、背中を見せていた玄一が、急にハンカチを出して涙を拭き始めた。
「ジイチャン、お父さん泣いてるよ……」
「これは……」
「まさか……」
「なにやってんですか、お見合い写真撮りたいって、お客さん来てますよ」
母の直子が、カーテンから首だけ出して用件を言った。
「取りあえずは、仕事だ」
「はいはい」
三十分ほどで仕事を終えると、玄蔵と直美は再びモニターにかじりついた。玄一は、数枚の写真を選び、アップにしたりロングにしたり、熱心に見ている。
「直美、このことはお母さんには内緒だぞ」
「うん……ひょっとしたら、この子……腹違いの、あたしの妹かもしれないものね」
須之内家の一大事……かもしれなかった。
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