戦隊ヒーローの働き方改革

ちびまるフォイ

もうみんな働きすぎだから

「どんな悪事も見逃さない! 炎の正義、ジャスティスレッド!」


「世界に静けさと落ち着きを。ジャスティスブルー」


「わたしの力でみんなハッピーにしちゃうぴ☆ ジャスティスイエロー♪」


「ネイルの手入れはかかさない。ジャスティスピンクだしー」


「「「 5人揃って! ジャスティ―― 」」」



「……あれ? 森の妖精ジャスティスみどりは?」


レッドはあたりを見回した。


「レッド聞いてないのか?」

「まさか敵の怪人に……!?」


「インフルだ」


「インフル!? なんで俺だけ聞いてないの?!」


レッドは持っていた対怪人の武器を落としてしまった。


「ちょ、俺たち5人いないと必殺技出せないわけじゃん!

 困るよ、そんな急に休まれても! 戦隊は年中無休だよ!?」


「しょうがないだろインフルなんだし」


「しょうがなくねーよ! みどりが病欠で休んだ日は

 怪人に市民が襲われましたってしゃれにならないだろ!?」


「それじゃどうするぴ?」


「とにかく、ジャスティスみどりに話を聞いてみよう」


レッドが電話をかけると壊れかけのラジオのような声が聞こえてきた。


「…………もしもし」


「みどりか? いったいどうしたんだよ」


「すみません……もう電話かけるのもしんどくって……」


「インフルか?」


「はい……。一応、今から病院で薬もらってくるんで

 それを飲めばだいぶ楽になるはずです……」


「わかった、待っている。

 忘れるなよ。俺たちは5人合わせてジャスティスレンジャーなんだ。

 1人でもかけたらチームじゃないんだ」


電話が切れると不満そうなピンクがレッドを睨みつけた。


「え? つーか、なに決めてるんだし?」


「決める?」


「なんでみどりを待つことになってるわけ?

 あたし、午後に合コンの予定あるからジャスティスみどりを待ってたら遅れるじゃん」


「何言ってる! みどりが合流するまで俺たちで怪人を足止めして

 みどりが到着したら合体ロボでやっつけるんだよ!」


「わたしも今日はちょっと……ぴ」


「イエロー!?」


「なんか今朝から頭痛くて……お腹も痛くなってきたぴ……」


「おいおいおい! 市民を守るのが俺たちの仕事だろ!?

 ブルー! お前からもこの女子たちになんか言ってやってくれ!」


「……俺は午後、別戦隊の面接に行く予定だから、今日の怪人はパス」


「ぶるぅぅぅぁぁぁあああ!!!」


全員が今朝からやたら時計を気にしていた原因がわかった。

放送時刻的にすでに街では怪人が暴れている時間帯。


けれど、みどりが合流する午後まで待ってしまうとみんな帰ってしまう。


「ええい! もういい! それなら午前中に一瞬で片付けてやる!

 みんな! 合体ロボの出動だ!!」


レンジャーたちはそれぞれのロボットに乗り込むと1つに合体した。

が、左腕担当のみどりがいないので、どうにも機体が傾いてしまう。


「おいレッド、バランス悪いぞ。ちゃんと立て」


「そう言われても片腕がないだけでこんなにもバランス崩れるなんて……」


「ちょ、ちょっと! 倒れてる! 倒れてるし!!」


せっかく合体したロボだったがあえなく公共の道路にぶっ倒れて市民を恐怖に陥れた。


「なにやってんのよレッド!」


「ちがうんだ! 急に足に力が入らなくなって……」


「おいイエローは?」

「さっき、具合悪くなって帰ったし」


「それが原因かよ!!」


イエロー担当の右足が失われたことで巨大ロボットは立てなくなった。

合体をといたレッドは頭を抱えてしまった。


「くそ! 今こうしている間にも怪人が暴れているというのに

 ひとりは病欠、ひとりは早退した状態で勝てるわけない!!」


「だよね。じゃ、あたしたちも今日は終わりにしよっか」


「おいこらピンク!! 解散しようとすんじゃねぇぇ!!」


「落ち着けレッド。多様な働き方を認めるべきだ。

 体調が優れないときに無理をすることがいいことじゃない」


「そういうお前も別の戦隊の面接受けたいから早めに帰ろうとしているだけだろ!!」

「まあな。この戦隊よりも待遇がいいんだ」


「脱げ! 今すぐその全身タイツを脱ぎやがれーー!!」




「みんな! おまたせ!!」


顔色までレッドになったレッドのもとに、

息も絶え絶えにしながらジャスティスみどりがやってきた。


「みどり……!?」


「病院に行ってからじゃなかったの? 早すぎない?」


「実は……こういうこともあろうかと、自分のクローンを準備していたんです。

 まさか使うとは思わなかったので時間かかっちゃいましたけど」


「みどりすげぇ……!!」


「でももう遅いんだ。イエローはすでに早退している。

 お前が合流したところで、もう巨大ロボを動かすことはできない」


「あ、それならすでに遠隔操作できるようになってますよ」


「みどりすげぇ!!」


「さすがに毎回ロボットに搭乗して戦っていたら危ないでしょう?

 このコントローラでロボットを操れるようにしましたから」


「こ、これが働き方改革なのか……!」



もう昔のようにいちいち手を合わせて必殺技を放つ必要はない。

誰かがコントローラのボタンをポチれば必殺技が出るようになった。


「ありがとうみどり!! なにもかもお前のおかげだよ!!

 これで怪人と戦える! 市民を救うことができる!」


「あたしも合コンにいけるし!」

「俺も面接に向かうことができる!」


レッドだけでよくなったジャスティスレンジャーは怪人のもとへと向かった。


ありがとうジャスティスレンジャー。

こうして世界の平和はいつも守られている。


「さあ怪人、覚悟しろ!! ジャスティスレッドがやっつけてやる!!」


市民は駆けつけたレッドに驚いた。






「今日、怪人は病欠ですけど……聞いてなかったんですか?」

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