クエスト 5:『修行/これはなんて生き物ですか?』

   ~教えて!イフ先生~


 その1『imvを鍛えYO!』


 説明しよう!


 imvとは、この《Imaginary・Online》で最も重要視される、プレイヤーの想像力のこと。


 imvによって、この世界のほとんどが左右されると言ってもいい。武器・装備の性能然り、ユニークスキル・エクストラスキルの創作制限然り。


 あらゆる面において活躍するimvは、プレイヤーの戦闘力と言っても過言ではないのだ!


「とりあえず、この世界では想像力、つまりはimvが全てだ。だからそれを鍛えよう」


「でも、想像力って鍛えれるもんなの?」


「ああ、簡単だ。常日頃からいろいろなことを考えていればいい」


「それ大変じゃね?」


「いや、そうでもないさ。実際、人っていうのは、考えないと生きていけない生き物だからな」


「例えば?」


「親が夕食をつくる時、献立は何にしようとか自然と考えるだろ?」


「なるほど」


「ここにいる奴らはみんな、特に大半は中高生が多い。そんな中で想像力を鍛える物つったら妄想することが一番手っ取り早い」


「何をするんだ?」


「本を読むのさ」


「本?」



「お前が見たことのある好きなアニメで、原作が小説だけど読んだことはないっていうの、ないか?」


「あるけど……」


「とりあえず、それを読め」


「それ効果あんの?」


「試してみればわかる。小説なら校則が厳しいうちの学校でも読むことができる上に、自然とその場面をイメージする。さらにそれが、見たことのある好きなものなら思い出す感覚で楽にできる」


「おお~」


「ま、簡単に言うと妄想癖になれってことかな」


「なんかやだよ」


「じゃあ想像力豊かになれ」


「それなら、まぁ……なれるかどうかはわからんけど」


「安心しろ。ここにいるのはみんな、現実が嫌で妄想に囚われたオタクばかりだ」


「そこに含まれてると考えると、なんかやだな」


「四の五の言わずにさっさとやれ」


「はい……」



 その2『実戦で鍛えYO!』


 成長するには実戦で経験を積み、学ぶのが一番!


 敵との間合い、攻撃のタイミング、反撃の見極め。それらに意識し、より無駄のない動きを習得すれば、効率がよくなり次の選択肢も増える!


 勝率も上がって、『敵なし・負けなし・怖いものなし!』の力を身に着けYO!


 注意!

 一度でも敗北したもののレベルは1になるため、HPがイエローに達した場合は、即座に撤退しYO!


「次に実戦だ」


「実戦なら俺特に問題なくね?」


「甘いぞマサ!」


「急にどうした!?」


「そんなことで、最強を語れると思っているのか!?今現に君臨しているのは誰だ!?この世界で《オーバーロード》に最も近い奴なのだろう!?なら、その座も奪いに行く覚悟がなくてどうする!?」


「なんでこんな時だけ無駄に熱血!?」


「と、言うわけで、これからはレベル差20のクエスト、ソロで一日10個こなそー、おー」


「嘘だろ!?」



 その3『情報収集をしYO!』


 戦いとは、己の力と力がぶつかるだけの単純なものではない!


 敵に甘い考えで挑めば命とり!予想外の出来事があったって不思議じゃない!

 圧倒的力の前では敵わないという実力差の見極めが大事!


 故に戦いとは、相手を知ることから始まるのだ!


 相手を知ることで、次の行動への選択肢の幅を広げYO!


「続いて、情報収集だ」


「情報収集?」


「そうだ。戦いとは相手を知ることから始まるのだ」


「おお、なんか聞いたことある」


「と、言うわけで、ランキング1位の奴の敵情視察に行くぞー、おー」


「お、おー?」


「で、ランキング1位の奴って誰だ?」


「知らなかったのかよ!」



      ※



 イフによる変な講座が終わり、情報収集へと路地裏を進んでいく二人。


 進むにつれて街道へと出ると、そこに広がっていたのは夜の街と言わんばかりの暗闇と超高層ハイビルが立ち並ぶ場所。



 ――《イグジスト》。



 ここには、先の――《噴水オース広場》と同等の広場があり、その中央に電子掲示板が埋め込まれた時計台があるという、情報公開の場として用いられている場所だった。



 電子掲示板には時計台の側面ごとに、プレイヤーランキングやギルドランキング、緊急クエスト情報や期間限定のダウンロードコンテンツについて、他大陸の近況報告やこのゲーム関連の動画チャンネルなどなど。さまざまな情報が表示されている。


 そのため、二人の他にもちらほらと情報を求めてやってきている者がいた。


「えっとー?ランキングは、と……」


 暗闇の中、カラフルに色づく電子掲示板。

 テレビのように流される情報は、見えやすく凄いのだが、目に毒のように思える。

 こんなハイテクなものを自分はよく作ったなとほんと思う。


 そんな中、マサは「あったあった」と声を上げており、イフはその先へと視線を向けた。



「第1位が《Creator's》の団長:《テイル》。ギルドランキングも1位」


「尻尾?」



「第2位が《救世屋メサイヤ》の俺。ギルドランキングは8位」


「ふぁ~……」


「興味なさそうだな」



「第3位が《Creator's》の副団長兼Battler's団長:《バトラー》」


「やっぱ選手層厚いな」



「第4位が《Battler's》の副団長:《HERO《ヒロ》》」


「どこの検事ですか?」



「第5位が《Creator's》の《ハーミット》」  


「へぇ~」


「大体ここまでが《Creator's》の面々かな」



「第6位が《救世屋メサイヤ》の《アイス》」               


「お」


「我がギルドの副団長さんだね」


「今は違うけどな」


「……」



「第7位が《Gamer's》の団長:《レッドブル》。ギルドランキングは5位」


「翼を授けるって?」


「あれじゃない?きっとよくお世話になってんだよ」


「だから愛を込めて?」


「後は顔がブルドッグに似てて、目がいつも血眼……みたいな?」


「なるほどなぁ」


 ※ただの偏見かつ連想ゲーム(全国に住むレッドブルの皆様、ごめんなさい)



「第8位が《レン》」


「へぇ、俺以外にもソロがいたんだな」


「……」


「ん?どうかしたか?」


「いや、何でもない……」



「第9位が《白龍騎士団》の副団長:《KIWI》。ギルドランキングは11位」


「(名前は)しゃれかな?」



「第10位が《Battler's》の《ギガンテス》」


「どこの一つ目モンスターですか?」



「とまぁ、こんな感じかな」


「なるほどな」


「なんか気になることでもあるか?」


「ランキングってimv順じゃないんだな」


「ああ、まぁそれを含めた実力でシステムが判断するからな……って、制作者がそれぐらい把握してなくてどうすんだよ……」


「いやだって俺、制作頃そんときの記憶無いし」


「へ?」


「ん?」



「はぁああああぁあああ――――っ!?」



 高らかなマサの驚き声は、暗闇の中に盛大に響き渡った。



      ※



 ――二週間後の実戦中、とある草原にて。



 講義にて出した課題『一日10個ソロでクエスト攻略』を、この日は5個までクリアし、マサは6個目に挑戦していた。


 今やっているクエストは、レベル15の《リザードマン》を同時に15体相手にしなければならない上に、それが連続で3セットあるという難易度・高のクエストだった。


 制限時間は30分。プレイヤーの技を真似るモンスターとして有名な《リザードマン》を2軍まで倒し、3軍の残り8体まで追い込むと、余裕ができたのかマサは口を開いた。


「なぁ、あっ」


 バックステップでリザードマンの攻撃をかわし、反撃の一閃を相手へ放つマサ。


 残り7体と化し、隙を見たのか《リザードマン》が周りを囲み、勢いよく円を描くように走り出す。


 技を真似るモンスターだけあって、行動から見るに、《リザードマン》はマサが1軍でいきなり放った《フレイム・ストーム・アタック》をしようとしているようだった。


 セオリーとして、技を真似てくる《リザードマン》に対して大技は最後まで取っておくのだが、イフの指定により序盤に使っていた。



 理由としては――、



『ランキング1位のテイルを相手にするということは、ギルド全員を敵に回すということだ。だから模倣として、人型で強力なモンスター《リザードマン》の群れ討伐クエストがいいだろう』


『群れ討伐の場合、相手のレベルはこちらよりも遥かに下だ。だからレベル差を補うために、あえて第1軍からお前の大技をかましてやれ。そうすることで、自分と同等の相手と戦うことができる』


『言葉通り、敵は自分自身。過去の自分を倒せないようじゃ、テイルにだって勝てやしない。テイルはお前よりも遥か高見にいる。近いようで遠い。だからその分、追い込んだやり方でいく』



 ――だとかなんとか。



 そして現在、その《リザードマン》が終盤にて完全の自分と化している。しかも7体。辺りに疾風を巻き、駆け抜けていく姿はまるで影分身のよう。


 そんな中で意識を集中すれば、竜巻の隙間からイフが平らな岩の上に寝っ転がって何かしているのが見える。どうやらさっきの声かけは聞こえていないようだった。


 それが不思議と気になるため、竜巻を駆け上りながら現れる《リザードマン》を薙ぎ払っていく。


 背後から飛び出してくる一撃一撃を目を瞑って、出てきたところを即座に叩く。

飛び出した《リザードマン》が竜巻へと返されていく様は、まるでモグラたたき。


 竜巻の中へ戻してもキリがないため、駆け回る《リザードマン》とは逆方向に同様の回転を掛ける。


 同時に、双剣を構え、竜巻の中へと刃を入れる。風力風圧に抗うように、そのまま勢いよく切り裂いていく。


 さすがに自分の大技なだけあり、竜巻の威力は上々。そのため声を荒げて力を籠める。


 すると刃が敵の武器へと衝突し、火花が上がる。そのことに頬は緩み、勢いに身を任せるように体を一回転させる。


 全攻撃が走り回った《リザードマン》へとヒットし、それぞれの武器へとぶつかり弾き飛ばす。


 火花が火花に重なり、渦の中を駆け巡る。火花が火の玉サイズになり、渦を照らしなぞるように着火する。



「――……《大炎上ラージ・ファイア》!」



 途端、今までとは比べ物にならないほどの炎の渦が巻き起こり、火山に噴き上がるマグマがサイクロンのように吹き荒れる。


 渦の中にいた《リザードマン》たちは、焼かれながらに跡形もなく消え去っていく。散りゆく姿は灰ではなく、雪のように輝きを発するポリゴンだった。


 《Congratulation!!》という達成の文字と共に、紙吹雪のエフェクトが舞うのだが、それさえも散りゆく火花が焼き尽し、辺り一帯を『火』という一文字で覆いつくす。


 剣を腰へとしまうと、技の効果が自動的に切れ、渦の勢いが失われ、解放されていった。


「派手だねぇ……自然は大事にしようね?」


 クエスト達成したことに気が付いたのか、マサへと声を掛けるイフ。


 だが、相変わらずに視線はこちらではなく、メインメニューウィンドウにあった。


「まさかエフェクトまでも焼き尽くす大技を作り上げるとはな」


「俺もビビった……で、何やってんだ?」


「ん?」


「いやだって、ずっとメインメニューウィンドウ触ってるだろ」


「ああ、ちょっと探し物をな」


「探し物?」


 起き上がり、見つけたのかスクロールする手を止めるイフ。


 仮想世界の景色を眺め、風を感じている姿は、どこか遠くを見ているようだった。


「さっきも言った通り、俺にはこのゲーム開発時、3年前の記憶がない」


「……ああ」


 開かれる口から出た言葉は、何とも言い難いことだった。



 ――記憶がない。



 それがとても、マサには重くのしかかった。


「だがこの世界に、その開発時に携わった仲間と、その記憶の断片がデータとして存在している」


「じゃあ、そいつを探せば……」


「あるいは、な……」


 微かな希望を掲げられ、少し表情が明るくなるマサ。その姿を眺めるイフとしては少し口元が緩む。


 それを探し見つけ出せば、失われた記憶を取り戻すことができる。記憶が戻るかもしれないというその可能性がちゃんとあることにマサは嬉しく思う。


 視線を再び、メインメニューウィンドウへと戻すイフ。考え深そうにするも覚悟をもってウィンドウをタッチする。


「なぁ、マサ……」


「ん?どうかしたか?」


 深刻そうに考え込むイフ。すると人差し指を天にかざし、口を開く。


「上からくるぞ、気を付けろ……」


「へ?」


 趣が暗いイフ。


 とても間抜けな声を上げるマサ。指さす方を見上げると、何やら白い光が青空の中輝いているのが見える。


 時刻は午前11時。この日は土曜の休日。この世界の天候は晴れ。


 なので、今星が輝いているということに、疑問符を上げてしまう。


 一番星かとも思ったが、こちらへと徐々に近づいているため違うことを察する。


 加速し、吸い込まれるように下降する光の玉は、隕石そのものだった。


 空に一閃の尾を引く隕石を神秘的に思う反面、恐怖が身体を包み込む。



 ――うん、終わったな。



 確信と共に、光は一瞬ですぐそこにある。



「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――――っ!?」



 弾け、宇宙の神秘がこの場を制圧していく。



 白き光が包み込むそんな中で、彼等の意識は途切れ、消えていった――。



      ※



「……っ」


 意識が朦朧する。思考が鈍り、視界が薄っすらとぼやける。


「気が付いたか」


 目をゆっくりと瞬かせ、声をする方へと視線を向ける。


「俺はいったい……」


 起き上がり、頭を押さえるマサ。

 視線の先へもう一度目を向けると、そこには案の定のイフがいた。


「んじゃ、紹介するよ」


「え?」


 立ち上がり、視線を横へと向けるイフ。

 マサも自然とその方向へ目を向ける。


「……っ!」


 するとそこには、青白い光に包まれ宙に浮く、目を瞑った一人の少女が佇んでいた。



「サポートAI・システムコマンド・ID:白ユリ《リリィ》――――俺の嫁だ」



「What!?」


 突如、あまりの出来事に返事が英語と化し、旋風が横切り目を瞑る。


 ただ、ふと隣の光景に視線を移せば、相変わらずのように納得してしまう。



 ――なるほど。



 目の前にいた少女が、閃光のようにイフへ抱き着いている。その姿は仲睦まじく、周りにラブオーラがなくもないように錯覚できる。


 そのことに頬が緩むマサ。


 思う事があるとすれば、



 ――爆ぜろ。



 ただその一言のみだった。



      ※



 6個目のクエストが終わり、間を挟むも、七個目のクエストへと戻るマサ。



 ただ――、



「ふふふ、イフ~♪」


 背後にいるホワホワ感に見舞われた光景を目にすると、気分が削がれ、集中できないため、どうにかなりそうだった。



 突如として現れた、白銀長髪に透き通った空のように青い瞳を持った少女――《リリィ》。



 白いフリルのワンピースに身を包み、少し恥じらい気味にイフに歩み寄る姿は、子白猫のそのものだった。



 そんな彼女――《リリィ》は、このゲームの製作者――《イフ》のサポートAIのようなのだが、魂が宿っているとでも言うのか、感情的で生身の人間のように生き生きしていた。



 そしてイフはと言えば――、



「何だこの可愛さは……っ!まるで子猫そのものだと……っ!だがっ、次元という壁が俺の前に立ち塞がっている……っ!こ、これが現実か……っ!く、クソぉ…………まぁでも、この世界だけでも幸せでありたいと思います……」



 ――変な葛藤に見舞われていた。



 しかも、あっけなく敗北しているし……。


「お前、らっ!人のっ、邪魔をっ、したいっ、のかっ!手伝って、くれる、のかっ!どっちなんだよっ!?……がはっ」


「焼いてんのか?(火属性使いだけに……)」


「ちげぇよ!」


「まぁ、お前はリアルで野球部エースなんてポジ持ってるし、モテルから問題ないもんな……へっ」


「めんどくせぇなこいつっ!」


 マサはぶれず、いつも通りのいろいろ物申したい今日この頃だった。


 そう、いろんな意味で。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る