希望の光⑩

美咲side

71

 いきなり、強い光に包まれた。

 眩し過ぎて、巫女のリーダーや世奈の友達の姿が見えなくなっていく……。


 い、息が、苦しい……。


 この感覚は、あの時と同じだ。

 自分が立っているのか、横になっているのか、もうどういう状態になっているのか訳が分からない。


「世奈! 世奈ーっ……」


 遠のいていく意識の中、かすれるような悲痛な声で、世奈の名前だけを呼び続けていた……。


 人のざわめき……。近代的な機械音……。駅のアナウンス……。


 えっ……。


 私は、薄紫色の衣装ではなく、白のジャケットを着ている。


 これって、まさか!


 辺りを見渡してみた……。やはり、ここは地下鉄のホームだ。


 戻っている! あの日、あの瞬間に、戻っている。


 ということは……。


 すぐに、右隣りを見た。


 世奈だ! 世奈が居る!


 そこに立っているのは、あの時の幸薄そうな女子高生ではなく、私が知っている誰よりも強い世奈だ。


 うわっ!


 あの日と同じようにバランスを崩し、世奈の身体がホームから離れていく。

「キャーッ!」と叫びながら、入ってくる電車に引き込まれそうになっている。とても、自ら飛び込んでいくようには見えないが、まさに、あの時と同じ状況だ。


 迷わず、肩に掛けていたバッグを投げ捨て、すぐに世奈が着ている制服の背中を右手で掴んだ! 空いている左腕で世奈の身体を抱きとめる。


 ヤバい!


 ズンッと重みが掛かり、一緒にレールに吸い込まれてしまいそうだ。

 電車が入ってくる唸り声が近付いてくる……。


 絶対に、死ぬ訳にはいかない!


 左足で踏ん張り、必死に世奈の身体をホームに戻そうする。


 えっ……。


 急に2人分の体重が、嘘のように軽くなった。柔らかな白い生地に包まれている。


 これは、もしかして……。


 世奈に傾けていた頭を上げて、正面を見た。


 イケメン天使だ!

 左の翼が痛々しく折れている真っ白な衣装のイケメン天使が、電車側から世奈と私を支えている。


 ホーム側からも、別の力が加わった。

 後ろのおじさんと、左隣りの男子学生が、私の身体を力尽くで戻してくれようとしている。そのまわりに居た観客者達も、それぞれに持っていた物を投げ捨て、精いっぱいの力を貸してくれている。


 私は世奈を抱えたまま、ホームにドサっと倒れ込んだ。


 数秒あとに、電車が目の前を通り過ぎていく。


 イケメン天使が、世奈に何か話し掛けている。それを聞いた世奈が、ワンワンと泣きだした。


「ヨナ、立派であったぞ!」


 イケメン天使が、涙を流しながら微笑んでいる……。

 私も泣いた。

 なんと返事したら良いのか分からない。言葉の代わりに涙が溢れてくる。


 私はずっと、イケメン天使にムカついていた。イケメン天使のせいで、訳の分からない世界で、訳の分からない状況になっていると恨んでいた。

 けれども、今、目の前に居るイケメン天使に、深い親しみを感じている。温かくて、懐かしくて、私のことを大切に思ってくれている本当に兄のようだ。


 イケメン天使が世奈を見つめながら、スーッと消えていく……。

 気が付くと、大きな喝采に包まれていた。


 救えた! 世奈を、守ることができた! 悔やみきれないあの瞬間を、やり直すことが出来たんだ!


 その時、大きな白い羽が宙を舞った。世奈も、その羽を見つめている……。


 ようやく、気付いた! イケメン天使の左の翼が折れていたのは、私達を助けたからだったんだ。


 感動……、感謝……、幸せな感情がいっぱいに溢れ、世奈に抱き付いたまま私も声をあげて泣いていた。

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