美咲side

61

「ヨナ様! 王様からの贈り物をお届けに参りました」


 張りのある男の声が、南殿に響く……。


 えっ、国王からのプレゼント?


 意味が分からずに、衣装を整えてくれていたチヌと顔を見合わせる。


 王宮の使用人達が戸を開けると、髭をはやした宝石商人が真っ赤な風呂敷包を抱えて立っていた。


「ヨナ様が申されていた、透明に輝く石を見つけたのです!」


 宝石商人が、誇らしげに包みを差しだす。


「えっ、透明に輝く石って……」


 チヌが部屋の奥へと通すと、宝石商人は風呂敷包を丁寧に開き始めた。1番上に積まれている立派な木箱の蓋を開けて、慎重に中の物を見せる。


 う、うっそーっ!


 一目で分かった。本物だと。この世界にもあったんだ、私が愛して止まないダイヤモンドが!


 技術こそ乏しく、人工的な磨きは施されていないが、自らが解き放つ煌めきは想像を遥かに超えている。


 神々しい……。なんて、美しいの! 


 暫し、心と瞳を完全に奪われる……。


「王様の命により、ヨナ様に合わせて仕上げて参りました」


「えっ、私に合わせて?」


 こ、このダイヤモンドを、私に? 国王は……、国王は……、本当にいい奴だ!


 最近、私の中で、国王の株は急上昇している。王妃一筋の国王は、私には何も求めず、ただひたすら与え続けてくれるという非常にありがたい存在だ。


「あの、着けてみてもいいですか?」


「是非に」


 宝石商人が、箱から出して手渡してくれる。

 燦然と輝きを放つその宝石を、左手の薬指にはめてみた。


 ピッタリ! デザインのセンスも最高じゃない!


「見てーっ、チヌ!」


「見事な輝きでございます! この世の物とは思えませぬ」


 チヌも、目をパチクリさせている。


「それから、こちらは、ヨナ様が発注されていた物でございます」


 そう言って、宝石商人が2番目の木箱の蓋を開けて見せた。

 中には、華の宴の時に着けていたエメラルドの指輪が入っている。私が、サイズを造り変えて欲しいとお願いしたものだ。


「あっ、これはチヌに」


 そう言いながら箱から取り出し、チヌの右手の薬指にはめてみた。


「うぉー、ピッタリ! 私、さすがだわ」


 このエメラルドは、私よりチヌの方が絶対に似合うと思ってリフォームしてもらっていた。


「ヨナお嬢様、いけません」


 チヌが、指輪をはずそうとする。


「いいじゃない! 王宮の使用人達だってみんな宝石着けてるし、その薄い緑の装束にはやっぱりエメラルドよ! それに、チヌにもお洒落して欲しいの! 王様も、良き事だって賛成してくれたし」


 再び、チヌの手を取り着け直す。


「ヨナお嬢様……」


 チヌが瞳を潤ませながら、私とエメラルドの指輪を交互に見つめている。


「宝石を着けると気分が上がるし、自分にも自信が湧いてくる! 女にとっては必需品よ!」


「その通りでございます!!」


 私の言葉に頷きながら、宝石商人が嬉しそうにチヌを見つめている。


「お2人とも、実によくお似合いになっておられます。では、わたくしはこれで」


 そう言いながら風呂敷をサッと畳み、宝石商人が満足そうな笑顔で部屋を出ていく。


「ありがとうございました!」


 ハイテンションのまま渡り廊下に出て、チヌと2人で見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る