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「ねぇ、世奈。いつの間に、イケメン天使と親しくなってたの? あっ、イケメン天使じゃなくて、私の兄……」


「大丈夫です! イケメン天使で分かります」


 イケメン天使……、美咲さんのネーミングは天才的だ。

 いつから親しくなったのか? それは、たぶん、前世からだったのだろうと思う……。

 あの笑顔が大好きだったような、ずっと前からドキドキしていたような、そんな気がする……。ジュンユン様を思い出すだけで、この胸は高鳴る。


「あの、美咲さん!」


 この気持ちを、美咲さんにどうしても伝えたいと思った。


「私、ジュンユン様のことが、好きみたいです」


 言ってしまった。

 こんな衝動的な発言をするのは、初めてだ。


「えっ、そうなの?」


 とがめることなく、美咲さんはあっさりと受け止めてくれている。

 心が、少し楽になった。


「私は巫女だけど、想うのは自由ですよね?」


「別に、いいんじゃない」


 私の片想いには、それほど関心はないようだ。それでも、聞いてもらえるだけで嬉しい。ジュンユン様の話をしているだけで楽しい。


「そういえば、美咲さんはどうして、このかんざしのことを知ってたんですか? ジュンユン様から頂いたこと」


 ずっと気になっていた。

 このことは、コウにしか話していないはずなのに。


「それは……」


 ストレートに話す美咲さんが、珍しく言葉を選んでいる。


「そのかんざし、買うところ見てたから……。イケメン天使が、想い人にあげるって言って。あいつも世奈のことが好きなんじゃない?」


 想い人? ジュンユン様が……、私を……?


「えーっ、そんなーっ! ほんとですかー? 信じられなーい!」


 嬉し過ぎる! もう喜びを抑えることができない。

 恋一つで、人はこんなにも幸せになれるものなのか? 恋一つで、自分の命がこんなにも愛しく思えるものなのか? 私の前世スヨンは、生きることを楽しんでいたのだと誇りにさえ思える。


 スヨンの命……。

 こんなに輝いていた命を、私は台無しにしてしまったんだ……。

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