この二人は名相棒

NEO

序章 まあ、色々

第1話 逃げろ!!(改稿)

 私は全ての書類を鞄にしまい、小さく息を吐いた。

「師匠、準備は出来ましたか?」

 イートンメスが小さく頷いた。

「うん、出来たよ。これは存在したらいけない資料だよ」

 私は手に持っていたUSBメモリを魔法で燃やした。

「では、いきましょうか。味方は私だけではないですよ」

 イートンメスが笑みを浮かべ、私の手を取った。

 椅子から立ち上がり、私は鞄の中の小型拳銃をそっと触った。

「手はずは整っています。問題は、妹のクランペットがヘマをしないかどうかですが、多分大丈夫でしょう。では、いきましょう」

 私はイートンメスに、笑みを浮かべた。

「頼むよ、ホント。私が最後まで粘って残ったもんだから、やたら狙われてるからさ」

「分かっています。クランペットがルートを確保しているはずなので、問題ないでしょう」

 イートンメスが笑みを浮かべた。

「だといいけどね。ここの警備は厳重だから」

 私は笑みを浮かべた。


 研究所の建物を出ると、茂みに隠されていた黒塗りの車がみえた。

 夜闇に溶け込むようなその車に近づくと、イートンメスが助手席の扉を開けた。

 私が乗り込むとイートンメスが扉を閉め、運転席側に回って扉を開けた。

「では師匠、こういう時は冒険野郎マクガイバーのテーマで」

 イートンメスが笑い、今時珍しいカセットテープをデッキに押し込んだ。

「あのね、真面目にやってよ」

 わたしは苦笑した。

「真面目ですよ。さて、とっとと行きましょう」

 イートンメスが車のエンジンをかけ、ノリのいい曲と共に車が走りはじめた。

 しばらく所内の道を進む間に、私は白衣の胸ポケットにつけていたIDカードを取り外し、しばしみつめた。

「……」

 車の窓を開け、私はIDカードを投げ捨てると、イートンメスが笑って同じ事をした。

 車が正面ゲートに着くと。イートンメスが手帳サイズの何かを守衛に見せた。

「緊急です」

 イートンメスがいうと、守衛は特になにもいうことなく遮断棒を開けた。

 車が門を出て街道を走りはじめると、私はシートをリクライニングさせ、軽く目を閉じた。

「師匠、ゆっくり寝られますよ。これからフォーリンの町までは時間が掛かります。自治権を持つ貴重な町なので、少しは時間が稼げるでしょう」

 イートンメスが笑った。

「自治権を持つ町ね。よく進入許可が取れたね」

 私は苦笑した。

「蛇の道は蛇です。さて、私も頑張りますよ」

 イートンメスが笑った。


 私の名前は、スコーン・ビレット。年齢は十九才。

 故あって王都の魔法研究所に、魔法研究者として勤めていたのだが、とんでもない魔法の研究命令がきたため、従前から魔法研究所に不満を持っていた研究者と共謀して逃走を図る事になったわけ。

 まあ、細かい事を話すとキリがないが、今は逃走の旅の最中といっておこう。

「それじゃ、軽く寝るからよろしく!!」

 私はシートの背もたれに身を預け、そっと目を閉じた。

 ちなみに、マクガイバーのテーマを聞きながらノリノリで街道をぶっ飛ばしているのは、私の右腕ともいえる第一助手のイートンメス。

 本名はイートンメス・ボナパルトだが、フルネームで呼ばれる事を嫌うため、私はイートンメスと呼ぶのが常だった。

 私は軽く目を閉じ、車が石畳の段差を拾う揺れに身を任せて、そのまま睡魔に任せた。

 主要な研究者が軒並み逃げ出してしまった上に、最高機密のデータまで持ち逃げしてしまったため、今頃は大騒ぎになっているだろうが、そんな事は知ったことではなかった。

 こうして、私たちのちょっとした旅は始まったのだった。

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