第7話 ショッピングモールとプレゼント
クリスマスを目前に控え、ショッピングモール内は鮮やかな色彩の楽しげな飾りで彩られていた。流石クリスマス前の休日。どこもかしこもプレゼントを見繕う人々で溢れかえっている。
この世界には通販というとても便利なものがある。
それでも尚、人はプレゼントを送りたい相手と共に選びたいという欲求は失われてないらしい。
さて、ソナスに何を送ろうか?
ショッピングモール内を2人であちこち彷徨う。
彷徨ううちにホビーエリアに俺たちは迷い込んでいた。
『なあ、1個だけでいいから買ってっても良いか?』
思わず欲望が口からついた。どことなく楽しげにくりっと可愛らしく開いていたソナスの目がジットと半目になる。はあとわざとらしいため息をソナスは吐くと
「仕方ありませんね。1個だけですよ」
と財布からカードを取り出すと俺に手渡した。
前から欲しかった一品を手に持ち俺はレジに並ぶ。背後から好奇の視線がザクザク刺さる。
今の時代、ロボットはそこそこ社会に進出はしているが、俺やソナスのようなものはまだ実装されていない。
試作型の俺たちはかなりここでは目立っていた。俺達というよりはむしろ俺だな。ソナスは外見は普通の人と変わらない。アニメやゲームのロボットそのままが出てきたような俺は否が応にも目立つ。名残惜しいがここは早々に退場するしかないな。
会計を済ませ、逃げ出すようにホビーエリアを後にしようとすると
ん?んん?あれは!
思わずショーケース内に並んでいるプラモに俺は食いついてた。
そこに飾られていたのは俺と同じ姿のプラモデル。作者コメントには亡き友に捧げるとあった。
「おい、お前!」
不意に背後から聞き覚えの在る声が投げかけられた。
振り向きたい気持ちと振り向いてはいけないと気持ちが瞬時に揺れ動く。
「マキナ!行きますよ」
固まる俺の手を引くとソナスは小走りでホビーエリアから行き交う人の雑踏の中に逃げ込んだ。
暫く走って止まった先にあったのは落ち着いた雰囲気のある雑貨屋。
主にモチーフは現存、空想の生物。
ふと背中に小さな天使の羽根を生やした猫のモチーフの髪留めが目に止まった。
ソナスの奴、前髪長いからな。これなんか似合うかもしれない。運がいいことにまだ手にはさっきソナスから渡されたカードが握られていた。
『これ、貰えますか?』
俺が声をかけると店員は一瞬びくっと肩を震わせたが、すぐさま接客スマイルを向ける。
「畏まりました。プレゼントですか?」
『それでお願いします』
「畏まりました。包装はどのようにいたしますか?」
順次店員から尋ねられる質問に答え終え、暫く待つと「ありがとうございました」という言葉と共に可愛らしい袋が手渡された。
「何を買ったんですか?」
店内を見て回っていたソナスが俺に尋ねる。さて、素直に答えるかどうか迷うな。俺が答えないでいると、ソナスの眉間に皺がより、ずいと顔を俺の顔に近づけた。
「誰に買ったんですか?」
可愛らしいお目目が半目で怖いですよソナスさん。これは白状するしかない。
『ソナスにだよ。帰ったら渡すから』
聞いた瞬間、半分閉じられていたソナスの目はクリッと可愛らしく開き、眉と口角の端が少しばかり上がっていた。明らかに喜んでるよなこれ。
「用は済みました。早く帰りましょう」
中身を見るのがよほど楽しみなのか、ソナスは足早にショッピングモールの出口に向かい始めた。『はいはい』とプラモの入った紙袋を片手に俺がその後姿を追い始めるとジリジリと大音量で警報機のサイレンがモール一体に鳴り響いた。
≪火災発生、火災発生。至急係りの者の誘導に従い避難願います≫
避難警報と共に誘導された人の波に出口付近にいた俺たちは押し出されるように外に追いやられた。
外に追い出され数分。モールの方を振り返れば赤い炎が建物の内部を満たし、黒い煙がもうもうと立ち上がっていた。
呆然と炎に飲まれる建物を見つめる人々の中に泣き叫びながら「コウちゃん、コウちゃん」と呼ぶ女性の姿があった。
俺が小さいとき、迷子になった俺を探しにきた母親の姿と重なった。
こんなの見たら放っておけない。
『迷子ですか?』
俺の姿をみて女性は一瞬驚いた顔をした。それから祈るように話し始めた。
「一緒に来た息子の姿が見つからないんです。まだ、あの子、中にいるんじゃ…」
ここのモールの広さは直線距離で500mくらい。俺のレーダーでなんとか観測できるギリギリの範囲。最大出力で観測するとここから300mほど離れた所に人物の反応があった。館内案内の地図と照らし合わせるとそこは子供の遊戯施設のあるところ。
『最後にいたのはこの遊戯施設じゃなかったですか?』
館内地図を取り出し指さし確認すると母親は大きく頷いた。間違いないコウちゃんはここだ。
さて、ひとっ走り救出してきますか。
『ソナス、これ預かってて』
言って俺は腰にマウントしているバッテリーの上に備え付けられたバッテリーとほぼ同サイズの円筒形の物体を取り外し、ソナスに手渡した。
「ちょっと、マキナ!どういうつもりですか」
珍しくソナスが慌てた声を出す。それもそうだ。円筒形の物体は高濃度酸素発生装置。言うなれは俺の生命維持装置。
脳に酸素がいかなくなればあっさり俺は第二の死を向かえる。それほど重要な機関をはずすのは自殺行為に等しい。
しかし、酸素を積んだ状態で火災現場に飛び込んで引火でもしようものなら被害をさらに拡大させることになる。
『ひとっ走りして助けてくるから』
言い終える前に俺は最大出力でモールに向かって駆け出していた。
駆けるごとにゴリゴリと内在酸素量が減っていく。この調子だと10分持つかどうかだな。これだけあればいける。
火災発生源から離れていたお陰でコウちゃんがいると思わしき児童遊戯施設にはまだ火の勢いは迫ってはいなかった。
『コウちゃん!コウちゃん!居るんだろ?ママがお外で待ってるよ』
人影の見えない遊戯施設に呼びかけると滑り台の影から小さな少年の影がひょっこり顔を出した。
『君がコウちゃんかな?』
滑り台に駆け寄り、屈んで尋ねると少年はこくりと頷いた。
『怖かっただろ。一緒に帰ろう』
抱き上げると少年はびえーんと大音量で泣き始めた。泣きじゃくる少年を抱えて俺は元来た道を戻ろうとすると気付けばあたり一面を炎が飲み込んでいた。
火の回りが速い。サーモで火の手の弱いところを探して出口に向かって走る。行きに比べるとかなり大回りをさせられている。外壁をぶち抜いて脱出という手は下手に空気が入れば大爆発がおきかねない。これは最終手段だ。
時間はまだ大丈夫。
もう少しで一番近い出口。たどり着いた先は豪炎が舞い踊りとても人を抱えて通れるような所ではなかった。
まだ出口はある。次、次、次、行く先、行く先、出口は炎に飲まれ出ることが出来ない。
残存酸素量10%。これで後何分動ける?
最後の出口は偶然にも俺たちの避難したところだった。そこは炎は踊り狂っては居なかったが、熱で崩れた太く大きな支柱が出口を塞いでいた。
『あとちょっとだって言うのに』
太い柱は俺の最大出力で割れるかどうかというところ。それならまだふさがれた出口の上の壁を蹴破る方が脱出できる可能性は高い。
残存酸素量1%。やるしかない。
少年を抱えたまま、思い切り助走をつけ俺は外壁に向かってとび蹴りをかました。
ドゴーンという盛大な衝突音ともに、外壁に穴が開き俺と少年は脱出を果たした。
「コウちゃん!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を晒すのも気にせず母親が俺に駆け寄り少年を抱きしめた。
「ありがとうございます」と何度も礼を言う母親の声は俺には聞こえていなかった。壁を蹴破ったところで酸素量は0%になり俺に意識はなく、体はオートバランサーがなんとか支えてくれている状態だった。
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