第5話 共同生活

「ここが君達の部屋だ」


会長に通された部屋は正面窓側の壁面が一面ガラス張りの20畳ほどの広さのワンルーム。窓からは俺の住んでいた社宅などの町並みが一望できる。

部屋にはカウンターキッチンが備え付けられ、右端には真っ白なシーツの敷かれたダブルサイズのベットが二つ並べられ、その脇にはバッテリーの充電ケーブルが延びていた。


「ドアは人物認証性になっているから鍵はない。登録者以外はこの部屋には入室することは出来ないから安心してくれたまえ」


『はあぁ』


目の前の光景に圧倒され、曖昧な返事を俺は返していた。何だこの部屋。ホテルのスイートルームか何かか?キッチンがあることから元はゲストルームだったのかもしれない。そんなことをぼんやり考えていると


「おっと、もうこんな時間か」


腕時計の時間を見て会長は少しばかり焦った声を上げた。


「会食の予定があるんで、わしはこれで退場するよ。マキナ君、分からないことがあったらソナスにきいてくれ。では、また」


そう言うと日出男氏は足早にエレベーターホールに向かって行った。


取り残された俺とソナスの間に会話はない。部屋はシーンと静まり返り沈黙が気まずい。何を話せば良い?まずは自己紹介からか?


『まあ、これから一緒に暮らすことだし、まずは自己紹介でもしようか、俺は…』


俺が言いかけるとソナスが被せるように話し出した。


「エクス・マキナ様ですね。お話は日出男様、宝子お嬢様から自らロボットになる実験に志願された稀有な方と伺っております」


え?俺ってそういう扱いなの?まあ、おおむね間違いじゃないけど。


『俺のことは大体知ってるとして、君の事を教えてくれないか?』


「畏まりました。私は日出男様に作られた感情解析を主目的とした試作ロボット、ソナスと申します」


感情解析ロボットか。

人は感情を持ち、ロボットは感情を持たない。だからこそ人はロボットに感情を持たせることに夢を見る。

人は何故感情を持ちえるのか?

そもそも根本的な快不快という感情は既に人間には備わっている。それが様々な経験を経て多様な感情へと変化していく。

しかし、ロボットには元々人に備わっている快不快というものすら存在しない。それがない状態で果たして感情は生まれるのか?確かに追求しがいのあるテーマだ。


だからこその俺なのかもしれない。外見は明らかにロボット。そんな俺でも元は人。感情は勿論在る。俺という人とロボットの間の存在を観察することでソナスは感情とはなにかの一端を知るかもしれない。


ふとソナスの顔に視線が行く。ソナスは機械だ。その顔はとても整っていてそれでいてとても愛らしい。

この少年が心から笑ったらそれはとても輝いた良い笑顔になるんだろうな。


『ソナス、笑ってみてくれないか』


「こうですか?」


思いついたまま吐いた言葉にソラスは素直に応えてくれた。

ソナスのそれは確かに綺麗な笑顔だった。ただ綺麗なだけ、微笑を浮かべる人形のもの。

この時、俺の中で1つの目標が出来た。ソナスを心から笑わせようと。

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